第20話 女子会? +@
──一同は、ファミレスにしけこんだ。
「……ところで、会社は大丈夫なの? 」
「そこはバッチリ、部長言いくるめました!
」
「コイツの手腕には舌を巻いたぜ……」
「手際は絶妙としかいえなかったわね」
「出来る子だとは思ってはいたけど……」
最年少侮りがたし。
「それはそうと! どうしたの? 急展開じゃない! もしかして、付き合っちゃってる?
」
ストレートな物言いに、悠華と薫、黒田が慌てた。
「そ、そんな話にはなってないから! 」
「ほんとにい? 」
「そこは時間を掛けて頑張ります」
「あ、諦めてなかったのかよ?! 」
まるで学生のノリ。
「あなたは諦めてください」
「いい度胸してんな」
「はいはい、堂々巡りしかならないので二人きりの時どうぞぉ? 」
「え? 嫌です」
「俺だって狙い下げだ! 」
「面倒臭いからコントやめてくれない? 周りが見てるんだけど」
ファミレスで騒いではいけません。
それでなくとも、目立つ人間が揃っている。
傍から見れば美女四人に囲まれているハーレム黒田。
お目目パッチリ、メイクバッチリのイマドキゆるふわギャル。
メイクバッチリ、ナイスバディの濃い目セクシー美女。
ふんわりとした清楚系美人。
そして、まるで2次元から飛び出してきたかのような2.5次元風白ロリ美少女。
それに囲まれている、爽やか系スポーツマンタイプの短髪イケメン。
いるだけで見てしまう。色めき立ってしまう。
若干一名、全く自覚をしていないけれど。
当人はぽかーんと成り行きを見守っている。
渦中であることの認識もどこへやら。
「あの、大した内容ではないんだけど……」
悠華が話し出すと、皆黙った。
一番掻き消されそうな薄幸さを持ちながら。
「ただ避けてるのは失礼かなって、話し掛けたの」
三人は、電話で告げられた以上に目を丸くする。
「……お人好し過ぎませんか? 」
沈黙を破ったのは蛯名だった。
「危ないとは思わなかったの? 」
「ちょ、ちょっとではないけど、怖かったのは……──フラッシュバックしてしまったからで、薫くんがそこまで悪い人かって考えたの。そしたらね? 薫くんは私に何もしていないって気がついたの」
暫しの沈黙。
「……ストーカーしてたろ」
次に沈黙を破ったのは黒田だった。
「確かにストーカーしてましたよね? 」
一斉に薫に視線が行く。
「……はい、すみません。嫌われたら嫌だなとか、オレを知って欲しくて無茶しました。だから……──オレも驚きました」
視線は悠華に戻る。
「あー……、あれだよ。物理的にはされてない。メンタル攻撃もあるけど、薫くんは危害を加えようとはしていないってこと」
「当たり前です! 好きな人は守りたいじゃないですか」
一瞬、ほんの一瞬、間が出来た。
「ぶっ……」
最初に吹き出したのは、矢張り、蛯名。
「天然ですよねえ、純粋ですよねえ、甘酸っぱいですねえ、アハハハハ! 」
お腹を抱えている。
「うふふふ、ホント。いくつになっても、何度しても恋って新鮮なのかもね。あ~あ、あたしにもそんな人ほしいわぁ。一途な彼氏ぃー」
「それ言ってしまうと、黒田さんと同類になっちゃいますよお? 」
「それは嫌ね」
「おい! 俺の恋愛、黒歴史にしておきながら更に掘り起こすな! 」
楽しげな笑いに変わる。
薫は戸惑いを隠せなかった。
大人だからなのか、経験が物を言うのか、達観した思考故なのかは分からなかった。
ネガティブに向かわず、何でもポジティブに取れる。
社会に出れば、自ずと学ばされるスキル。
対人スキルというやつだ。
これは、どこまで客観的にものを見て、どこまで判断出来るかによる。
誰もが習得できるわけではないし、表面のみぽくしている場合もある。
他人に深入りせず、かと言って無関心にしない。
プライベートならば好きにできるけれど、社会では嫌いな人や苦手な人でも、好感ある態度を示さねばならない。
たまにいるはずだ。
ものすごく爽やかに、且つスマートに対応している人。
相手を騙しきれているパターンと、ビジネススマイルパターン。
どちらもできる人だか、前者はプライベートでも、好感ある口調で毒を吐く。
蛯名がそのタイプである。
後者はプライベートとの落差が見て取れる。
悪意がある人とない人で分かれている。
その後者が黒田のタイプだ。
華代もこちらに近い。
悠華もできる側ではあるが、ビジネスもプライベートも同一で好感ありき。
逆にそれを毛嫌う人もいるだろう。
粗探しをされて戸惑うタイプだ。
所謂、お人好し。
「話してみたらね? ……あまりに純粋過ぎて、逆に困っちゃった」
苦笑いをする。
皆、四者四様に思う。
騙されやすいから心配。
「純粋ではないですよ。し、下心のない、おと、こなん、て……」
真っ赤になる。
皆それぞれ、可愛いだとかあざといだとか、もらい照れ現象が起きていた。
「下心ねえ? 下心って、どんな? 」
見た目と
「手、手を繋いだり、キ、キスし、た、り……」
「……中学生ですか? 」
あまりの初期段階に蛯名がたまらんとばかりに震えている。
「……見栄はんなよ。そこはバーンと、セッryムグッ」
デリカシーのない黒田の口を塞ぐ蛯名。
「そ、そんないきなりそんな……失礼……です」
突っ掛るより、羞恥に負けた。
渦中の悠華は口を金魚のようにパクパクしている。
「『オレも男なんだからエッチなことだって考えてます』って言うのも恥ずかしいとは……あなた、童貞ですか? 」
口を塞いだままで暴れる黒田を、空いた肘で押さえつける荒業を繰り出しながら、さらりと確信をつく。
当の薫はそのまま突っ伏した。
相当恥ずかしかったのだろう。
「女子の台詞じゃなくね? てか、マジ? 」
「酷いですね! 歴とした女子ですよ、美少女の! 」
「自分で美少女って言うなよ」
「こんな可愛い女の子、ここにしかいませんよ? 私と奏以さんと華代さんくらいです」
「……奏以が可愛いのは認める」
「え……?」
「悠華さんは可愛いです! 」
がばりと顔を上げた。
「……腑に落ちない男どもだけど、悠華が可愛いのは事実よね」
「そうですね。後でちょっと腹パンしてあげたいくらい腑に落ちませんけど、奏以さんは可愛いです」
ベタ褒めに固まる悠華。
「わ、私、そんな、じゃないから! 」
あまりの状況に語彙力を失う。
「ま、奏以さんをからかいたいわけじゃないですし、やめときましょうか」
「そうね」
悠華に気が付かれないように目配せする。
「悠華、おトイレ付き合って。飲みすぎちゃった」
「え? うん」
確かに華代は、話しながら二日酔いだと言うのにグラスワインを何杯も空けていた。
「……じゃ、本題行きますか」
「悠華さんに……──聞かれたくない話ですか?
」
「ちょっとな……」
トイレ程度ではすぐに戻ってきてしまう。
華代の話術でどこまで引き延ばせるか。
「問題は、ですね。奏以さん自身が……──どこまで知っていて言わないかによるんですけどね」
「アイツ、抱え込むタイプだからな」
「そんな気はします。……それで? 悠華さんに言えないようなお話なんですよね? 」
二人は頷いた。
「黒田さんでは長くなるので私が手短に説明します」
黒田が何か言おうとして、耐えた。
ここでまたコントをするわけにはいかない。
「順は追います。本当は……──本人に話して欲しかったんですが、奏以さんがどこまで記憶されているかわからないがための対策を」
「ん? 華代さんのお話、ですか? 」
「はい、鏑木さんが調べた華代さんの仕事の話に関わりますので」
「ああ、あの児童文学作家のお話ですね」
蛯名は頷き、続ける。
「実は、華代さんがあの仕事に拘る理由があるんです。……その前に、私たちと仲良くなろうとか思います? 」
「……興味はありますね」
「お互いそれはありますよね。言いたいことは……──奏以さんありきなら私たち、利害なしに協力できると思いませんか? 」
「……詳しくお願いします」
蛯名は、悠華の名前を出せば必ず協力するはずだとわかっていた。
利用したい、とは考えたくない。
おなじ人間として友好でありたい。
お互い敵意はないのだから。
「……冷静に聞いてくださいね。あの事件の被害者の中に……──華代さんと奏以さんも含まれるそうです」
「?!」
「どう反応するかは想定内ですよ。……迂闊なことはできない、奏以さんのためにも。だから、穏便に業界から遠のいてもらう選択肢を選んだ。けれど、彼は理由を知らないから我を貫こうとし、自分を正当化しようとしているようですね」
「……何をされたんですか? 」
薫の様子がおかしくなる。
想定してはいた。黒田に対しての行動から、予想はできた。
「華代さんは……──濁していましたが、性的なことをされた可能性があります」
「?!」
ハッキリと歯軋りする音が聞こえる。
伏せられていても、口元がワナワナと震えていた。
残酷なことを伝えていることは分かっている。
だが、自分たちの計画を実行するには、薫の助けがいるのだ。
「一回……──物理的に始末したくなったんですが」
「おまえ、そんな不穏なこと考えてたのか?! 」
「ツッコミありがとうございます。……ですが、彼はそれなりに知名度があるからまずいなってすぐ思いました。それだけでは、警察は彼の悪事をうやむやにする可能性があります。ならば──社会的に、と」
精神的に追いつめたい。後悔させてやりたい。
ただなる話せば殺人事件に発展するかもしれない。
薫は悠華のためなら何だってする、そう踏んだから。
けれど、それでは双方とも共倒れ。
避けねばならないことだ。
「オレに……何をさせたいんですか? 」
「話が早いですね。私の頭脳と知識、あなたの情報網で、奏以さんを守りましょう」
「……悠華さんをダシにされるのは些か不快ですが、あなたにもあなたの理由があるんでしょうね」
「はい、奏以さんは私の恩人なので何をもっても守りたいんです」
「?!……わかりました」
薫もまた、蛯名という人間に興味があった。
彼女の信念の強さ、その意味を知る権利を得た。
それぞれの思惑を胸に、四人は、たった一人のために手を組む。
「では、こちらからも提案を……。俺のストーカーからも悠華さんを守りたいんです」
守ると言った。しかし、本当は一人では手に余る。
それほどまでに、逢鈴遊里は得体がしれない。
「確かに鏑木さんほどなら……詳しく」
「俺も知りたい」
遊里がしたことの顛末を話す。
利害の一致という言葉では顕せないなにか。
すべては──。
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