夢の終わり②
━━視界が真っ暗になる。
がぼっと空気を吐いた。
……水の中? しかし、苦しくはない。
人影を感じ、顔をあげると、目の前にプラチナシルバーの小さなメガネを掛けた、灰がかった青い瞳をした色白のイケメンが全裸でいた。
俺を視認すると、一瞬瞳を見開くがこちらに向かってくる。
『……これが。我、かの方の元に飛び立たん』
心底嬉しそうに俺に抱きついてきた。
俺はそんな趣味はない。
「ちょ……」
抱き着かれる瞬間、視界が暗転した。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
ツンと生臭い臭いで目が覚める。
……ここは?
薄暗い豪華な寝室のようだ。
「うわ! 」
ヌルッとした触感が手に当たって後退り、ベッドから落ちる。
手を見た。赤と黄色の混ざった異物。
頭を過ぎるのは体液。
「り、葎子? 」
頭を過ぎるのは、葎子の姿をしたあの女の言葉。
『妾の、蝶の世界に。……今頃はもう……』
……殺された?
信じない! どこだ! どこにいる?!
━━《女王の間》
頭にふと浮かぶ。
身体は自然と動いた。
ドアに向かう。
視線を感じ、見遣ると姿見があった。
そこに映っていたのは……。
……さっきの!?
コイツが葎子を……いや、信じない。
頭では間に合うわけないとわかってはいても、一縷の希望を持ちたかった。
ドアを開け、外に出ると、木の幹の中のような通路が左右に続いていた。
俺に構っていられないのか、何人かチラリとこちらを向くが、忙しなく大勢の美麗な男女が走り回っている。
「……本当なの? 」
「ええ、"女王"たちが一斉に瞳を開いたのを見たの……」
「不吉な予兆かしら、怖いわ」
「何してるの! 早く鍵を取ってきて! 」
「"女王の間"の鍵はあの部屋の真逆の最深部にあるんですよ! この"城"がどれだけでかいと! 」
「男たちは急いで"広間"に向かいなさい! 」
"女王たち"、"女王の間"。
身体が向く方とは逆に皆が走り去っていく。
逆、と言っていた。
身体の方向に間違いない。
こちらに気を回せないのか、慌てて走っていく。
1歩、また1歩と段々早く、ついには走り出す。
……葎子、葎子、葎子!
突き当たりに着くまでそうは掛からなかった。
鍵が掛かっていないのは会話からわかっている。
開き戸を引き、中に侵入した。
誰かいる気配はない。
ゾクリと背中に汗が滴る。
薄暗い中、何かを見た気がした。
恐る恐る上を向く。
……!?
何段にも連なる棚に、ケースに入った似たような面立ちの綺麗な女たちの首がズラリと並んでいた。
"女王たち"、そう彼女たちは呼んでいたのはこれか。
きっとこの中に……。葎子も首に?
ゾッとした。
ハッとする。"瞳を開いた"ならば……、意識はある?
「……葎子! 葎子! 」
スっと瞳を開いた同じような顔の1つ。
可能性に掛ける!
「葎子! 葎子だな?! こんなにされて! 」
瞳を開いたケースを抱きしめた。
瞳を見開く。間違いない!
「い、今出してやるから」
徐ろに腕を振り上げ、拳がゴンっと鈍い音を出してケースを叩く。
「ダメか、落とすわけに行かないし」
その瞬間、ピキピキと音を立てて割れる。
「「え」」
中の水が飛び出し、同時に発した。
落としそうになった首を支えた途端、双方の眼球が落下した。
……グチャり。
そのまま、形を保っていたはずの頭が頭蓋骨がなかったかのように首ごと腕の中で潰れる。
「あ、あ、あ、ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙!! 」
頭が真っ白になり掛けた瞬間、一斉にケースの中の女たちの瞳がカッと開かれた。
雪崩るようにケースが襲い掛かり、割れたケースから女の首という首が……俺に食らいつく。
……あまりの激痛に声を発する余裕もなく、一瞬で意識を手放した。
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