カゴの人間、飛び立つ蝶

「……、出来たの」


逢瀬を幾度繰り返したか、いつの間にか子種が出来ていた。

3週間と言われたが、出産には早いと言われた。

あちらの世界では2週間ほどなのに。

人間の寿命は長いからか。


━━母になった。母になれる。


「こ、子種? え? ……おまえ、誰だ? 」


ミスをした。

安心して綯い交ぜになってしまった。

人間は子種が出来た、とは言わない。

妊娠した、子どもが出来た、などという。

他にもあるだろうが、子種という言い方を日常会話では使用しない。

そもそもこの行為自体が非日常にほかならないのだが。

……2人の間に愛はない。愛は無くとも子種は出来る。


「……妾は胡蝶。これぞ蝶の見る夢。人間になりたい蝶と愛されたい人間が身体を交換しただけじゃ」


高多は青ざめていた。


「米山は?! 米山はどこだ! 」


血相を変えて揺すってくる。子種に響くからやめてほしい。


「妾の、蝶の世界に。……今頃はもう……」


それでも揺らすのをやめない。


「やっと、やっと手に入れたと思ったのに。妻とも別れられない俺が言うべきじゃないけど、嗚呼、米山……米山……葎子ぉ! 」


狂気かと思うほどに叫ぶ。


「……愛情とはおかしなものだな」


男たちは妾をこんな風に愛せたろうか。いや、妾が皆おなじと振り払った。




……では、アヤツはナゼ、妾の願いを聞き入れた?



━━今更気がついた。



「ならば願え。愛する者と永遠とわにあらんと」


口元が優しく緩む。


『葎子に会いたい』


願ってはならない願い。しかし、人間の思いは強い。

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