種選び

「米山」


嗚呼、誰だったか。そうそう、上司の高多という男だ。

妻子がありながら葎子に言いより、再三断られても諦めずに声を掛けていた男だ。


……葎子は戻らない。


子があると言うことは、しっかりとした種があるということだ。

母になるには打ってつけではなかろうか。


「なんでしょう。高多主任」


帰り支度をしながら問う。


「……俺、本気なんだ」


葎子は自分が平々凡々というが、それなりに整った顔立ちをしており、スタイルも悪くない。

自信が無いだけでチャンスはあったろうに思えた。


この高多という男。妾に集る男どもと違い、麗しくはないが、健康的で悪くない。


「……わかりました」


ヤツは入れ替わりには気がついていないのだろう。

行動が実ったくらいにしか考えていないに違いない。


◇◇◇◇◇◇◇◇


達成感に満たされた男の顔。

葎子の身体を手に入れてから、何となくわかる。

別れるつもりなどないことは。

これをというものだとはわかった。

妾の世界にはなかったものだ。


「……主任、私、子どもがほしいんです」


顔が強ばる。


「奥さんと離婚してほしいんじゃないんです」


浮気は甲斐性だ、というのは未だによくわからないが、浮気するほどの勇気がある男は強い意思も持ち合わせていると推測出来る。逆も然り。


男は複数を愛することが出来ると言われているようだが、そこに性別など関係ないとさえ思う。

人間ならば可能であろう。


堕ろすこと叶わぬ世界にいた妾には希望にさえ思えるのだ。

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