蝶の望みしもの

━━妾の一生は短しもの。


縛られとうなかった。母様のようにはなりたくはなかった。


母の腹を割り、産まれた子どもは乳母やに育てられる。母に抱かれることも無く。

およそ半年で成人し、男を選び、しとねを共にする。

中には毎晩違う男と褥を共にするものもいたらしい。

子種が出来ると、男に甲斐甲斐しく世話をされながら腹の中で育てるのだという。

2週間もすると男が腹を割き、子どもを取り出し乳母やに渡す。

そして、そのまま男に食われる。

首だけを残して。


妾は見た。歴代の女王の間を。

恍惚の表情をした美しい女たちの首が、魔法のケースに入れられ、並べられているのを。

母様は1番端にあった。妾とそっくりなその顔。


……母様、しあわせであったか?


皆、こうなるとわかっていたのにしあわせであったのか?

しあわせとはなんぞ?


子作り以上に食われるのは逸楽いつらくという。

だから痛みさえも快楽となりうると。

それで終いじゃ……。


1度しか子が産めぬからだ。

腹を割かれれば死ぬ。

ならばせめてもの……ということだろう。



……人間は何度でも子を為せ、自分で育てられるという。

母とはそういうものだろう。

子を産んだだけの存在を母と呼ぶには些か抵抗があったからだ。



━━妾はあがらう。人間となりて母となろう。

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