第4話二束三文

ここはカジノだぜ。

好きなだけカジノチップを積めよ。男前?

二束三文、意味は「端金」。

知らないやつはこの一件で嫌と言うほど耳にするだろう。

時としてギャンブルは想像を絶する。

だがいかさまは別だ。

無限の可能性という壮大な幻に取り憑かれ、食い殺されおっ死ぬのがオチ。

のるかそるか、駆け引きというのは高級スーツに付いた糸くずのようなもので、力ある人物の鼻息1つでどうとでもなる。

分かるな。

糸くずとなって吹き飛ぶのはこのおれじゃない。ボウズ・・・

おまえの方だ。

じゃあな。


その日、ミック・デンバーはビニー・ワイズナーの始末の仕方に納得行かなかった。

余計に関係者を増やしちまったからだ。

女に殺しの依頼をするなんて情けねえぜ。

だが、おれが直々手を汚すこともねえ。

粋がったボウズ一人殺るだけでボウズのいかさまチームを全員、締め上げる必要はなかった。

ボウズを見せしめにすりゃ事は済んだ。

それをワイズナーは、ケッ。やりやがった。

向こう見ずな女は常に危険だ。

映画やドラマなら、ハッピーエンドもあるかも知れないが、あのクソ女は判断を見誤った上に更にこのおれに毒づいた。

「こんな端金であたしを操ろうだなんて、あたしはあたしの仕事をしたまでよ。仕事に納得行かないのはあんたの勝手さ?」

売り上げの15%もの大金を支払っているってのにそれを端金だと抜かす。

今日という今日は、と思った矢先、女は別件でその運を使い果たした。


ワイズナーは確かに生き急いでいた。

靴も買えない貧乏地獄から今じゃ着ている物やら乗っている車まで全部、セレブの仲間入りを果たした。

結果、(殺しの)才女となった。

目的が何なのか?

人助けしてるって噂も耳にするがそれはこちらから知る必要はない。

裏家業の値打ちはその生きざまに表れる。

汚れた両手を血が滲むくらい洗うようになっても、魂を抜かれた白髪混じりの廃人になったとしても文句はねえはずだ。

大事なのは生きざまだ。

ハードボイルドは計算じゃねえ。


「おいおい、誰だよ?こんなところに」

痩せ細った初老の紳士がギャラリーに混じってルーレットに食い入って観てる。

「本当だ。神父さんここはあんたのような方が来るところじゃない」

「神父?ああこれはコスプレじゃよ。若いの。まあ間違えるのも無理はない。私は普段、牧師やっとるからのう」

「何?じいさん、そんなのどっちでもいいんだよ。場が白けるから出て行ってくれ。そのへんちくりんなそれ」

口元を指差す。

「そいつ(付け髭)も取るんだ」

雄々しく伸びた髭を毟り取ろうと躊躇なく強く引っ張っる。

「イテテ!何するんだ。君は!これは本物だぞ」

激しい口論になるも再びルーレットが回るとセクシーな女性ディーラーの胸元に釘付けになっている。

「やれやれ困ったじいさんだ」

辺りをキョロキョロ見回し、

「時に君、ここで人が亡くなったという話、聞かないか」

「じいさん、何言ってんだ?ここは娯楽施設だぞ。そんなことあってたまるか!」

突然激昂する男。

「さあ今度こそ出て行ってくれ。もう来るんじゃないぞ」

そう言って首根っこを掴まえる。

「おやおや、これは失礼した。それじゃ別の死体置き場かのう?若者たちが眠っている場所は」

「何だとじじい因縁付けてのか?こらぁ」

更にもう一悶着。

「私はただ彷徨える魂を鎮めに来たまでだ」

「こらっ!じじいお前本物の牧師か?幽霊んなもんいるもんか!一昨日来やがれ」

「あ、そう、死神さんならいらっしゃるようだがのう。あんたの後ろに」

怪訝な顔をして、本当かよってふと、素に戻る。しかし、男はバカだった。

「そんなやついるか!」

「あたしがそうだよ」

振り返ると眼光鋭い女性がフットワーク軽く、構えている。 

サイドに回って肘鉄一発。

相手の顎に炸裂。

勢いでぶっ飛んだ男の鳩尾にきれいに回し蹴りが決まる。

「あたしは喧嘩屋よ。さあ掛かって来な」

大きな靴音、大きな靴、さっきノワールの8番に賭けた大男があたしの前に立ちはだかった。

「掛かって来いってあんたのセリフか?」

「あんたが相手?相手に不足はないよ」

「いや、おれはただの客さ。うるさくて集中出来ないんでね」

「あんたの名前は」

「ここのオーナーはミック・デンバーと言っていたらしいな。ならおれもミックで構わない。もっとも向こうのミックはおれほどスタイル良くないが・・な。さあハニー帰るぞ」

「あん、待ってよダーリン」

小さい女が大男に絡み付く。

「あ、そうだ。ビニー・ワイズナーの昼間の顔・・」

と、言い掛けて、

「死んだんだったな。あばよ」

不思議な目配せをする。

「何さ?」

牧師は、言った。

「こいつは刑事さんだ。潜入中の。恐らくビニー・ワイズナーも潜入中の刑事」

「なんでそうなるのよ。これから一暴れしようってときに逮捕なんてあたしは嫌よ。帰るッ」

「ま、そうはならんだろう。専ら標的はオーナーのデンバー氏だ。金は振り込んである。だから私の依頼は受けてもらうよ。ピストル君」

「そろそろ教えな」

「何のことだ?」

「標的よ」

「ま、そうだな。その内」

それっきり口をつぐむ。

オーナーの部屋から警備の強化の指示が出る。

デンバーは躍起になって奥の手である新しい用心棒を呼べと部下に伝える。

まだ、状況を良く掴んでいないこの時に堪えることの出来ないボスを持つと三番手四番手辺りが余計な被害をより多く受ける。

案の定、用心棒は武力派の人。

「こいつね」

「ああ、確かにこの男だ。大馬鹿者!」

「じいさん、あんたはすっこんでな!あたしがケリをつける」

「だめじゃ、こいつは殺さんでいい。ピストルあんたの強さは良く判った」

「だけど・・」

「こいつは私の一人息子だ。親に心配ばかりさせる馬鹿なやつだがどうも憎めなくてな」

「なるほど」

「判ってくれるか」

「って判る訳ないね!」

バシッ

鍵の掛かったドアを蹴破り、

「あんたには恨みはないんだけど」

デンバーを必殺の拳で殴り倒した。

「生きざま見せてみな」


オヤジの店。

「で、このあたしに何の依頼?」

「やつ(死神)の話だ。聞きたいだろ」

例のカクテル(コジャレたカクテル)がスッと置かれる。

グッと飲み干す。

「やつは国外に逃亡したらしい。今は行方不明だ」

「追っ掛ける」

「それなら仲間がいるな」

「それと金よ。あのクソじじい。超ケチ」

「どれ」

オヤジがあたしの通帳を取り上げ睨み付ける。

笑いながら「こりゃ端金だぜ」

あたしもそれにつられた。


つづく。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る