証し
何か話さなきゃと口を開く。
「お、俺も昔、土砂降りの中、スリップ事故起こしちゃって……それから車運転出来なくなりました。情けないですよね」
何でこの話をしてるんだ?
彼女ふるふると首を振る。
「何が起こるかわからないのが人生ですよ」
彼女は癒しだ。
「……そうですよね。そのとき、何か当たった気がしたんですけど何も無くて」
ブルブルと震え始める。家族には話せない。
でも、何故だか彼女には知って欲しいと思い始めていた。
「人や動物轢いてたらどうしようって。周りや車の下もみたけど、何も無くて……でも、誰か殺してたり、怪我させてたらって考えたら怖くて。やってしまっていたらちゃんと償いたい。でもわからないではなんも出来ないし、どうしたらいいか……」
弱い自分より、カッコイイ自分を見せたかった。
見栄を張れるほどもう強くない。
情けないとしか言えない。
出会ったばかりの、名前も知らない女性に話す話ではないと分かってはいても。
話さなければいけないような気に駆られた。
そんな俺の話を静かに聞いてくれている。
「仕事もどんどん手につかなくなって、最近やめました。……あれから毎日悪夢のようにそのときのことが夢で再生されるんです。でも、何故かあなたと出会った日から見なくなったんです」
真顔で聞いていてくれたが、話切ると焦点の合わない瞳で笑ってくれた。
「お辛かったんですね。大丈夫、もう悩まなくていいと思います。そんなに気にされているのでしたら……ドナー登録なさってみては? 誰に渡るかはわかりませんが、障害のある方に必ず渡ります。私にもいつか誰かが……」
哀しそうに笑う。
「視力……戻らないんですか? 」
ドナーを必要とするレベルなのか?
「目だけでなく、内臓器官にも損傷があるんですよ。ですから、移植しない限り長くは……」
出来るなら俺が代わりたい、そう思った。
彼女には生きてほしい、と。
「……俺、ドナー登録します。あなたに渡るかはわからないけど、1人でも多く登録すればあなたを救える可能性が増えるから」
出来れば俺の臓器をあげたい。難しいかもしれないが。
必死で訴えた俺に、彼女は更に深く笑ってくれた。
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