Phase04 潜入

 港華街ガンファータウンの入り口には機関銃を持った男が二人立っていた。

 大戦が終わり、平和な世の中が築かれたとは言われているが、その安定は武器によって保たれているのだ。


 門番の背後には終わりの見えない高い塀があり、入り口の分厚い鉄の扉はぴったり閉ざされている。

「入れてください」

 麗蘭が港華の言葉で門番に話しかけた。


「お前たちは港華人か?」

 一人の門番が、機関銃を構えた。

「はい、そうです」


「腕を出せ。生体チップタグを確認する」

 もう一人の門番が、ペンライトのようなものを取り出した。


 まず、麗蘭の腕にペンライトが向けられる。ライトの背部から光が出て、空中に港華にある町の名前と、住所や市民番号が表示された。体内に埋め込まれた生体チップタグを読み取って、国籍を確認しているのだ。


「次はお前だ」


 俺は黙って腕を差し出した。腕には偽造チップが埋め込まれているが、一言でもしゃべれば、アクセントの違いで、港華人ではないとばれてしまう。


「どちらも港華の人間のようだな」

 生体チップを確認した門番が肯き、もう一人も機関銃を下ろした。

「だが、どうも納得いかない。おい、お前も何か言ったらどうだ」

 門番が俺の肩を小突いた。


「すみません。この人は話せないんです。大戦中に喉を負傷して」

 麗蘭が説明し、俺は首筋を見せた。念のためにしておいた特殊メイク。古い傷痕を見て、門番は肯いた。

「そういうことならいい」

 門番が機械を操作し、分厚い扉がゆっくりと開いた。


 扉に向こうに広がっていたのは、奥ゆかしい港華の町並みではなかった。

 キューブ状の建物が並び、その間をパイプのような物がつないでいる。空と地面は白いパネルで覆われていて、人工的な明かりが周囲を照らしている。自然な景色は一ミリたりとも見つからない。コンピュータの内側に迷い込んで、電子基盤の間を歩いているような感覚だった。


「街への侵入は成功だな」

 俺は小声で呟いてから、麗蘭の手をにぎった。

「報酬だ。これで当面は不自由なく暮らしていけるだろう」

 小さな電子音がして、俺の生体チップタグから麗蘭の生体チップタグへと、電子通貨スカイマネーが移動する。


「でも、まだ仕事が……」

「手伝ってほしかったのは、街に入るところまでだ。君はもう帰っていい。世話になったな」

「ちゃんと最後まで!」

「必要ない。足手まといだ」


「そう。分かったわ」

 麗蘭はどことなく寂しそうに目を伏せた。

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