Interphase' 標的

「会社を殺す? 意味が分からないな」


「我々のような軍事会社は世界に五十ほどある。それらは互いに微妙な均衡を保っていた。あえて開発の速度を制限し、決着をつけないようにしていたんだ」

「開発を制限だと?」

「どちらかが勝つまで争いは続く。争いが続けば武器が売れる」

 男は自慢するように胸を張って、

「去年の冬、バルト連合国ではエネルギー難で、数万人が凍死しただろう。あれは我々のプログラムで引き起こされた。だが、二ヶ月後には急速に復興した。南インドの軍事会社から防衛プログラムを買ったからだ」

「そうやってシーソーゲームをさせ、その都度、新しいを売りつけているわけか……」


 貧しい者たちは生きるために体を売ったり、汚れた仕事に手を染めたりしている。一方で、そんな人々の命をもてあそんで金を稼いでいる連中もいる。いまさら怒りも沸かない。それが世界の実態なのだ。


「ロジカル社はその均衡を崩そうとしている。我々よりも数年先を行く技術を開発し、各国に売りつけ始めたんだ。他の軍事会社を出し抜いてな」

「なんだって、そんな真似を?」

「おおかた軍需産業の独占が狙いだろう。ロジカル社の母体は、中国系の香杯シャンベイという会社だ。表向きにはなっていないが、十二の軍事会社を傘下に収めている」

「なるほど、他を根絶やしにして、自分の傘下だけで軍需産業を回すのか」

「ああ、旨味は全て自分のものにしたいらしい」

 男はまたハンカチでひたいをぬぐった。


「話は分かった。だが、香杯だかの経営者を殺せと言うのなら、俺には不可能だ。ターゲットが国内にいなければ手出しできない」

「心配ない。狙いは国内のロジカル社だ」

「そこの社長を殺せばいいんだな?」

「経営者が死ねば、ロジカル社は一晩で解体してしまう。それではバランスが崩れる。十年くらいかけて、じわじわ殺さなければならない」

「ちまちま毒でも盛れと言うのならお断りだ。他の殺し屋に頼め」

「いや、殺すのは社長ではなく、トップデザイナーだ。やつさえ殺せば、ロジカル社など敵ではない。あとは我々の手で、じっくりと潰してやるやるさ」


「トップデザイナー?」


「優れたプログラマーがデザイナーと呼ばれる。中でも圧倒的なのが、ロジカル社に居るピンフというデザイナーだ」

「そいつを殺せばいいのか?」

「だが、一つ問題がある。ピンフはロジカル社の施設から外に出ない」

「潜入は苦手じゃない」

「ロジカル社は港華街ガンファータウンにある。日系人はあそこに入れないだろう」

「それくらいは、なんとかするさ」

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