Phase02 奪取

 麗蘭を連れて店を出ようとしたとき、カウンター台の下と、ベッドルームへ続く通路と、カウンターの先にある衝立ついたての裏から殺気を感じた。


「女か、金か。どちらかはあきらめたほうがいい」


 俺は低い声で忠告した。だが、店主は耳を貸さなかった。

 店主が、打て、と叫んだ。

 ダンッ。衝立から銃声が響いた。

 銃弾が俺の頬をかすめる。

「麗蘭はお前のようなガキには惜しい女だ。ほら、命が惜しいなら、金だけ置いて帰れ」

 勝ち誇ったように、店主が笑う。


 結局こうなるのか。仕方がないな……。

 俺はその場にしりもちをついて倒れこむ。

 店主はそれを見て馬鹿にしたように、

「怖くて足が縮こまったか? ぐずぐずしてると今度は本当に撃ち殺すぞ」

「す、すみません」

 謝りながら、俺は両足を天井に振り上げた。

 長ズボンが重力でめくれ、くるぶしに隠していたナイフがあらわになる。

 両くるぶしからナイフを取る。

 足を振って反動をつけ、起き上がると同時に、通路と衝立に向かってナイフを投げた。

 ナイフは真っ直ぐに宙を飛び、一方は衝立を突き破り、一方は廊下の壁に刺さった。

 うぶっ。二つの鈍いうなり声が重なって聞こえた。

 腹筋と背筋を使って飛び上がり、二本足で地面に着地する。

 そのままカウンターへ走り、重たいカウンターを足の裏で蹴り倒す。

 ガシャーン。大きな音を立ててカウンターが倒れた。

 旧式の立体映像装置は重く、建物全体が振動する。

 ベシャッ。カウンターの下からトマトでも潰れたみたいな音がした。

 瞬時に店主に詰め寄り、首に指先を突きつける。

 あっけに取られた店主は抵抗すらしなかった。


「動けば殺す。金はくれてやるから、女はあきらめろ」


 店主は何度も肯いた。顔からは血の気が引き、丸太のような腕は弱々しく震えている。

「三人も殺して悪かったな。くれてやった金で新しく雇え。それから、治療費も必要だな」

「治療費?」

 俺は店主のポケットに手をつっこみ、彼の隠していた拳銃の安全装置を外した。

「こういうことだよ」

 続けざまに二度引き金を引いた。

 パン、パンッ。乾いた銃声が部屋に響く。

 ぐあぁ。両膝を打ち抜かれた店主が地面に崩れ落ち、白目をむき、泡を吹いた。


 麗蘭は黙って突っ立っていた。恐ろしさに叫ぶ気力すら失ったのだろうか。逃げようともせず、悲鳴も上げず、床を伝う血の流れを目で追っている。


「行くぞ、付いてこい!」

 俺は麗蘭の手を引いて店を出た。

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