#4
彼女は私の家は知らないはずだ。
でもつけられていたら…?
そしたら駅前で待っているのはおかしい。
本当に来ているの…?
脅しかもしれない。
毎日来るお茶の誘いのメールも最近では無視してしまう事もあった。
実際私は忙しい。残業の日々だ。
暫くの間、私は自問自答を続けた。
私は決めた。
家にある全ての鍵を閉めて、無視する事にした。
万が一来たら警察を呼ぼう。
そして終電の時間を調べた。
私の最寄り駅から彼女の自宅に帰る為にはそろそろ電車に乗らないと帰れなくなる。
気を紛らわす為にテレビを付けたままベッドに入り、何事もなく朝を迎えた。
翌日。
すぐに上司が対応し、彼女は私に関わらない事を約束した。
一先ず安心だが、彼女はポスティングの仕事がある。毎日会社にやってくる。
私はそのビラのコピーを毎日用意する。
嫌でも顔を合わせる。
会話は挨拶だけ。
とても明るかった彼女は人が変わったみたいに俯いて何も喋らず、黙々とビラを折っていた。
その時間は何故か私も緊張してしまう。
私も変わってしまったのだ、彼女を見る目が…
宗教の信仰は自由な事だが、押し付けようとするのはダメだ。
貴方の神は私の神ではない。
私は上司のお陰で平穏に過ごしていた。
この前の土日に現場で欠員が出たので、私は代理で現場へ出勤し、今日は代休で久しぶりの平日休みだ。
自転車に乗り下北沢へ向かう。
土日は混雑しているが平日なら自転車で行っても買い物出来る。
お昼はお気に入りのスープカレーのお店に行こう。そして古着を沢山見てカフェにいこうかしら…。
そんな事を思いながら道を曲がると遠目に歩く人が見えた。閑静な住宅街だから人通りが少ない。
私は自転車を漕ぐ足を止めた。
すぐに分かった。
あれは彼女だ。手に持つ紙袋は私が毎日コピーしたビラを入れている。
私は携帯電話をいじる振りをして電柱の影に隠れた。
一瞬彼女がこっちを見た。しかし気づかない。
黒のスーツにブラウス、ヒールの高いパンプス、薄化粧に少しパーマのかかったロングヘアを下ろしている私しか彼女は知らない。
ライダースにNirvanaのカート・コバーンのTシャツ、ショートパンツに網タイツ、大好きなDr.Martensを履いて、おだんごヘアにブラックのシャドウを重ねた目元にメガネをかけている。
そんな本当の私を彼女は知らないのだ。
私は小さな声で呟いた。
「私のこと、よく見てないから」
彼女はそのままポスティングをするのかアパートの敷地に入っていった。
私は空を見上げた。この場所から私の自宅まで徒歩5分という所だろう。
この辺りの住宅街は殆どがアパートかマンションだからポスティングするには最適ではあるが、何故ここに…。
一抹の不安を感じながら、とにかくこの場所から離れなければ。
自転車を漕ぎ出す。
私は彼女の終業時間を気にしながら下北沢で時間を潰した。
翌日上司に報告した。
「お前今どこに住んでるんだっけ?」
「〇駅から徒歩5分くらいの所です。でも彼女が昨日居た辺りは徒歩10分くらいの所でした。私の家に近い方角です」
上司は彼女の申告した配布場所を確認しながら言った。
「確かにお前の家の方によく行っているかもしれんな」
「それは狙ってという事でしょうか」
「いや申告されている地域に行っているのであればバラついているから、狙っているとは言いきれないね」
「彼女が気が付かなかったから良かったですけど、じゃあ偶然という事ですかね」
「そういえばお前私服だと全然違うもんね。とりあえず気が付かれなかったから大丈夫でしょ」
「本当に怖かったんですから〜!上司が狙われたら良かったんですよ」
そんな冗談を言うしかなかった。
こんな冗談みたいな状況は笑い飛ばしてしまうのが1番だ。
とうとう彼女の契約終了間近になった。
続
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