#2

彼女は初めての日払いにそわそわしている様子だった。

私から「初めての職場で緊張されたんじゃないですか」と尋ねた。

「いえ、皆さん良くしてくれて頑張ります」と彼女は微笑んだ。

「あちらの現場にはリーダーのAさんがいますよね?彼とは私も違う現場で一緒に働いた事があって、とてもいい人なので、現場で困ったら彼に相談して下さいね」と言うと「そうなんだぁ。Aさんには色々教えて貰ってるのよ。いい人よね」と少し心を開いてくれた様子だ。

「お姉さんは社員さんなのかしら」と聞かれたので「社員ですけど、ついこの間まではスタッフだったので気軽に話して下さい、良かったらお名刺です」と名刺を差し出すと彼女はパッと明るくなって「なこちゃん…って呼んでいい?」と言ってきた。

いきなり下の名前でちゃん付けか。私はまだ10代だ。舐められても仕方がない。

若干違和感を感じつつ「構いませんよ」と答えた。


数日後日払いに彼女が来た。

彼女はとてもお喋りな女性だ。そして明るい。とても離婚前の女性とは思えなかった。

「この歳だと友達とか出来ないのよ、なこちゃんがいい人で良かったわ。仲良くしてくれる?」と言われ、「私も友達少ないので嬉しいです。お話を聞くくらいしか出来ませんけど」と答えた。

「じゃあ携帯教えてよ!今度お茶したいわ」と言われ、断る訳にもいかず連絡先を教えた。

それから彼女から頻繁にメールが来るようになり、内容はお茶して話したいという事だったが、仕事が忙しいと断っていた。

ふと離婚の話だろうか、話せる人も居ないのかなと私は考えていた。


数日後、現場からクレームがきた。

彼女が派遣先で宗教の勧誘をしているというのだ。

会社では支店長、上司(担当)、私が喫煙所に集まり状況確認が行われた。

「で、今どういう状況なの?」と支店長が切り出した。

上司が「クライアント側からきているクレーム内容としてはクライアント側のパートさんと親しくなり喫茶店に呼び出して宗教の勧誘をしたそうです。リーダーのAからの報告だとパートさんが喫茶店に行くと、彼女と知らない男性が居て、宗教の話を始めたので逃げ帰り、怖くなって会社に報告したみたいですね」 と。

「Aは気づかなかったの?」と支店長が言うと、上司が「多分Aにバレたらこちらに報告するだろうと思って隠してたみたいですね」「なるほどね、確信犯な訳だ」

これは致命的だ。会社の信用問題にもなる。


そこで私は小さな声で言った。

「私…連絡先交換しています…。メール凄く来てます」

その場が凍りついた。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る