エピローグ
終わりなき悪夢
俺は記憶喪失でも鬱病でもない。
なってもおかしくなかった。
代わりに壊れたのは姉貴だったんだ。
すべてを姉貴にぶつけてしまったから。
□□□□□
ベッドに横たわる姉貴を、俺は絶望の眼差しで見つめていた。
そう、10年前だ。姉貴が犯罪者になったのは。純粋過ぎた故の凶行。俺の脅威を無くさんが為の。
頼んでなどいなかった。迷惑でしかなかった。
でも、俺が八つ当たりして怒鳴り続けず、家庭内だけでも心開いていれば……。
『ユウくん?! お母さん、買い物行ってくるけど、お姉ちゃん風邪拗らせちゃったから気にかけてあげてねー? ……ユウくんの言うことしか聞いてくれないのよ』
ため息混じりに呼び掛ける母さんの声が脳内に蘇る。
最後に聞いた声は母さんだった。
俺には関係ないと思い、返事もせずに布団に潜って直ぐに眠気に負けたことも覚えている。
問題はそのあとだ。起きたらあの場所にいた。
無意識に目の前のベッドの姉貴を見た瞬間、戦慄が走る。……姉貴が、いない。
嫌な汗が滴った。どこに……。
「ユウく~ん? なんで百面相してたのお? 思い出したのお? ……あれ、無意味だったんだよねえ? あの三バカいなくなっても、ユウくんはわたしと話すどころか……突き放したよね。お姉ちゃん、悲しかったあ。涙止まんなかった。ユウくんの為に頑張ったのに」
頼んでなんかない、その言葉さえ口に出せない。怖い。
姉貴は後ろから俺を抱きしめるように腕を回し、ピッタリとくっついてくる。
汗でベタベタのシャツに胸が押しつけられても、恐怖が勝った。
俺は10年越しに違和感を覚えた。
━━なぜ、姉貴はピンポイントでヤツらを殺せた?
俺は話していないはず……。
何で会話が成り立った?
「な……んで」
やっと声を出せたが、続きが出てこない。
殺した理由はあのとき聞いた。姉貴の判断で排除された。
「ん~? 殺した理由? は話したよね。あ! 彼らをなんで知ってたか、かな? 」
必死に頷いた。
「ユウくんはお母さんから聞いてない? お母さんがアクティブな人なのは知ってるよね? ユウくんが1人であんな怪我するわけない。だからね? ……割り出したんだよ、お母さんがね。 直談判しにいく時無理言ってついていったの。あ、お母さん、結婚する前は弁護士とか探偵のアルバイトしてたらしいの」
臆病な姉貴が? もうそのときには考えていたのか?
ハキハキ喋る姉貴なんか知らない。
母さんの前職にもビックリだけど。
俺は立っているのが辛くなってきた。すぐにでも倒れたい。
「……ねぇ? ユウくんは高い声、耳障りだって言ったよね? どう? ユウくん好みになったでしょ? ……好きだもんね? この声」
嫌な予感がした。なぜ、なぜ知っている?
「ホントはいっその事、潰しちゃおうかと思ったの。ユウくんの嫌いなら。でも、意外としぶといものだね。ガラガラになっても声出るんだもの。……5年、5年掛かったよ。たまたまだったけどね? 」
嘘だ、嘘だ嘘だ嘘だ! 似てるだけなん、だ……。
信じたくない気持ちと、遠まわしな事実が絡回る。
「……一……ノ瀬…りゆ……」
震えが止まらない。
「うん♪♪ わたしが一ノ瀬りゆだよ♪ 」
憧れの存在が1番身近だった喜びと、それが目の前にいる姉貴だと言う絶望。
「……好きなんだよね? ここには知り合いなんていない。一ノ瀬りゆを独り占め出来るよ♪ 」
俺はシスコンではない。線引きくらい出来る。
だがしかし……、ライトハンドが欲望に忠実だった。近づいてきた姉貴の胸をまた鷲づかんでいた。
恐る恐る姉貴を見る。
「いいよ? だから、その代わり……ユウくんはわたしが独り占め、するからね♪♪ 」
可愛い笑顔にゾッとした。
「……お願いしたの、ずっと一緒にいられますようにって」
恍惚とした表情に変わる。
「だから……お母さんがいない二人きりの時に火をつけたの……」
──俺は狂った姉貴に殺された。
赤い映像は、最後に見た目の前に広がる炎……。
嗚呼、神よ。何故、何故姉貴の願いを聞き入れた……?!
「ユウくん♪ ずっと2人で生きていこうね♪♪ 」
悪夢よ、俺を解放してくれ……。
未知の異世界で姉貴の顔色を伺いながら生きていくとか、拷問以外何ものでもない。
願わくば……来世は姉貴のいない世界に!!!
bad fin
異世界に姉がついてきたんだが…… 姫宮未調 @idumi34
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます