第二話 不協和音の記憶
バラバラのピース。
違和感だらけ。
記憶と現実はいつも噛み合わない。
何故かはわかっている。
片方が自ら合わせようとしていないからだ。
□□□□□
飲み終わったコップは直ぐ様奪われる。
「……オマエタチ、ヨソモノ。オカシクナッタノ、キットオマエタチガキタカラ。ハヤクムラカラデテイケ」
優しくしたわけではなかったらしい。
たしかに余所者と言われたらしっくりくるが、いきなり出ていけはないだろ。
「ナーシャ、気持ちは分かるが言いすぎだ。あくまで可能性だろう? 悪いなー。お嬢さんが落ち着いたらお願いするよ。コイツ、訊かないからさ。すぐそこが空き家だから好きに使ってくれ」
小屋ではなく、鏡のある家のひとつを指し示す。
それだけ言うと、引き摺られる様にしてどこかへ行ってしまった。
……他の誰かで気を紛らわせていただけだった。
関わらないでいたらどれだけ平穏だったか。
いや、逃げているだけだ。そんなことはわかっている。
「姉貴……」
掴んだ俺の手に負担を掛けまいしている様が手に取るようにわかる。重くないから。
「……なさい。ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい」
俺はビクッと手を離しそうになったけど、踏みとどまった。
いきなり壊れたラジオのように謝り出したらさすがに慌てる。
(え?! 何?! 姉貴?! )
「落ち着け! ほら、あの空き家入るぞ! 」
折角提供してもらったんだ。人がいないからってここは往来だし。
姉貴を引き摺るようにして足を向けた。
中に足を踏み入れると、木を基調とした質素な家具が揃っていた。
ちょっと前まで誰が住んでたような……。
入ってすぐ左側には、窓に面した白い丸テーブルに背もたれのあるシンプルな白い椅子が対面して置かれている。
(二人用? )
窓には清潔感のある白いカーテン。
角に白い板を填めた、空の写真立てが置いてあるだけの棚。
光取りのためか、90度先の壁に入ってすぐより大きめの窓がある。
中は広くはないけれど最低限でまとめられているせいか、狭くは感じない。
数歩奥には、子窓付きの簡易キッチンがあった。
冷蔵庫や電子レンジのような文明の利器はない。水道すらも。
水は横にある大きな瓶にでも入れるのだろうか。
木のまな板、木の持ち手の包丁が丁寧に置かれている。
キッチンには収納場所も少なからずあった。
部屋の左側奥に階段が見える。
寝室は2階だろうか。
さて、椅子に座らせるか、ベッドに横にさせるか。
「姉貴? 」
呼びかけても、ブツブツとごめんなさいを繰り返しているだけ。
少し寒気がした。何に謝ってるんだ?
歩いてはくれるので、階段に向かう。
ゆっくりと上がった先、そこは屋根裏部屋とも呼べる場所だった。
アニメで見たような三角、はないものの、低い天井が目につく。
あとは、クイーンサイズよりは小さく、シングルサイズにしては大きなベッドが壁に沿っていた。
丁度窓の下にくるように。
横にはこぢんまりとした三段収納と、角に合わせてつっかえ棒が斜めに掛かっている。
あれだ、ハンガーを掛けられるやつ。
取り敢えず、姉貴をベッドに座らせた。
「……ごめんなさい、ユウくん。わたし、わたしわたしわたしわたしわたしわたしわたしわたし! 」
俺に謝っているのはわかったが、また壊れた。
どうしたらいいかわからないが、落ち着かせなければならない。しかし、俺には手段が浮かばない。
悩み続けているうちにも、姉貴は"わたし"を繰り返している。
(口を塞ぐ? 無理矢理布団を被せる? )
パニックになり掛けたそのとき、姉貴が止まった。
何事かと思い、……すぐに悟る。
俺のライトハンドが姉貴の胸を鷲掴みしていた。
姉貴は我に返り、顔を茹でダコにしている。
黙っていれば美人、いや見た目美少女なのに彼氏遍歴は0。
俺も彼女いない歴年齢。
免疫なしの成人姉弟だから仕方ない。
だがしかし、問題はそれではなく、違うのだ。
俺のライトハンドが、更に柔らかさを堪能しようと揉みし出していく。
止めろ、家族じゃなかったらセクハラで豚箱行きだぞ。臭い飯なんか食いたくない。
「や、やめ、あふ……」
(その声でやめてくれ! 理性が! 理性が! )
「いい加減にしろ! マイライトハンドォォォォ! 」
……すべてが静寂に包まれた。
お願いだから責めてくれ、姉貴よ。
ここまで抵抗されないと自己嫌悪に押し潰されそうだ。
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