本編

第一話 見知らぬ地と耳

忘れていた。


あんなに母さんに念押しされていたのに。


俺は面倒の2文字で何もしなかった。


気にかけていれば、未来は変わっていたかもしれない。


□□□□□


取っ手を引くと眩しい光で目を瞑った。

次第に慣れるとギョッとした。


「……どこだよ、どこの田舎だよ」


鞣しただけの地面、家は数メートル間隔。

やけに眩しいと思ったら、家ごとに大きな鏡が斜めに立て掛けてあった。……明るくするためだけのソーラーパネル?


「ユウくん……、何がどうなってるの? 」


困惑した姉貴が俺にピッタリとくっついてきた。

やめてくれ、当たる。だが、状況的に突き放すことは出来ない。


「俺にもわからない」


丁度そのとき、前の家の死角から鍬を担いだ男性が現れる。

違和感を覚えたが、先ずはここがどこだか知りたい。


「あの! 」


引き篭もりだったが、人見知りでなくてよかったと思う。


「ん? なんだい? 」


ゆっくりとした歩調で、こちらに来てくれた。


「すみません、伺いたいことが……」


けれど……。


「あんたら、昨晩は大丈夫だったか? 」


逆に聞かれてしまった。


「……え? なにが? 」


昨晩?


「知らないわけないだろう? 突然空が燃えてるような色になったんだから」


空が? ……ような?

脳裏に赤い映像が過ぎった。

なんだ? 今の……。


俺は自分の違和感に囚われ、姉貴の変化に気が付かなかった。


ずるっと強く下に引かれ、ビックリして振り返る。


「姉貴?! 」


姉貴は俯いたまま、俺の腕で力なく速度を下げながら崩れていく。


「姉貴! 姉貴! 」


膝をつき、右手が地面につく。残った左手を思わず握った。


「おい! 姉貴! 」


叫んでも返事はない。


「……お嬢さんもか」


睨むように男性に振り返る。


「怖い顔しないでくれよ。あれだ、あれを見てからうちから出てこないヤツらが後を断たない。たぶん、お嬢さんみたいな状態なんだろうよ」


……昨晩、突然空が燃えているように見えたと言っていた。

もしかしたら、あの映像に関係が?


「……ここは一体どこなんだよ! 」

「ん? ここって、ここは"ファランド村"だよ」


最初に聞きたかったことがあっさり返ってくる。

ファランドってなんだよ、聞いたこともねぇよ。

姉貴と現状に翻弄され、パニックに落ちそうになった瞬間、すっと目の前に水が並々と入ったコップが突き出された。


「ノメ。オチツク」

「え? ありがとう」


片言で言われ、無意識に手を伸ばして受け取る。

顔を上げたそのとき、俺は目が点になった。

兎のような長耳に動物のような細い瞳孔の瞳、姿こそ人間だが違う。


「わりぃな。あ、俺のカミさんだ。"ロップ族"出身だから悪目立ちしちまうがな」


ロップ? ロップイヤー? やっぱり兎?

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