第5話 冷たい飯と温かいアニメ
「うっうーん・・・・ハァ」
俺は天井を見上げながら、ベッドの上で思いっきり背伸びをした。机の上の丸い置き時計を見ると、時刻は8時20分と少し。Twitterをするついでにネットサーフィンをしていたら、いつの間にか2時間ほど経過してしまっていたらしい。
「そういえば、まだ飯食ってなかったな・・・」
ドアの横に視線を移すと、レジ袋に入れられたカツ丼が、ひょっこりと顔を現していた。俺は手に取ろうと、ベッドから降り立った。
しかし、一歩を踏み出した瞬間気づく。俺の部屋には、電子レンジがない。よって、コンビニで温めてもらわなければならなかったが、俺はなぜか、その一言が言えなかった。
自分でもわかってる。俺は、いつも他人の目を気にして生きてきた。傷つくのを恐れ、他人の顔色ばかり伺って、自分の思いを押し殺してきた。その代償がこれだ。もう取り返しはつかない。
カツ丼を袋から出し、ベッドの上に座った。パッケージを開けながらリモコンを手にとり、テレビの電源を入れた。
パッケージのゴミを投げ捨てながらテレビを見てみると、「クーピーあっこ!」というアニメをやっていた。
「クーピーあっこ!」とは、日本の国民的テレビ番組で、毎週金曜の30分間放送されている。内容は、生まれて間もなく母を亡くした、とても元気な5歳の幼女、「あっこ」が「父ちゃん」と母のいない日々を過ごすというものだ。かなりギャグが多く、思ったことをすぐに言ってしまう「あっこ」に周りが翻弄されるのも面白いが、時々ある感動回はいつも俺の心を震わせる。昔は見ていたが、最近はどうなっているのかわからない。
俺は「クーピーあっこ!」のopを聞きながら、カツ丼を食べ始めた。とても冷たい。コンビニでの一件を思い出しながら、その思い出を飲み込むように、次々と口へ運んでいく。
「クーピーあっこ!」が始まった。今回はいつものギャグ回のようだ。あっこの素直すぎる言動に、笑いが止まらない。カツ丼の米が、口から飛び出るほどだ。
笑いに笑い、最後はギャグで終わった。テイストは全く昔と変わっていない。20分が本当にあっという間だった。
他に見る物はないので、テレビを消して「高野豆腐」というゲームを開いた。
このゲームは本格グラフィックの現代RPGもので、ただ単に主人公が仲間を集め、幻の高野豆腐を巡ってヤクザ達と熾烈な抗争をするというストーリーになっている。一見糞ゲーのようだが、アクションが多種多様で、ストーリーの数も膨大なので、ちょっと変なゾーンで流行っている代物だ。
ただ、俺は120万円の奨学金をこのゲームにつぎ込んだため、全ストーリーを解禁してしまっている。そのため、基本やることがネット民とのプレイである。
オンラインプレイを開き、友達バトルでネット民と戦い合った。もののみごとに3分ほどで完勝してしまった。俺は飽きてゲームを閉じた。
そして、そろそろ夜のセルフ営みをするかするかと思い、テレビを消そうとリモコンに手を伸ばした。
テレビを消した瞬間、CMのかわいい女の子達の顔からいきなり汚い自分の顔が現れてびくついてしまったことには気にも止めず、俺は机の上のパソコンを開く。
俺の下半身センサーが疼いている。
パスワードを素早く入力すると、エロゲーのサイトに直行した。
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