第4話 他人に認められる喜び
第四話 他人に認められる喜び
俺は部屋の扉を開けた。部屋中の熱気が一気に押し寄せてくる。カツ丼を扉横に置き、急いでクーラーをつけた。冷風が出るまで、バッグを下ろし待つ。
クーラーはゆっくりと冷風を出し始めた。
「フヒ~」
俺は椅子を回転させ、どっすりと座った。冷たい風が心地よい。
しばらく冷風を浴びた後立ち上がり、ぐしょぐしょのシャツとパンツを脱ぎ捨てた。そして、部屋の隅にあるタンスからタオルとパジャマを取り出し、汗を拭いた後に素早くパジャマに着替える。
俺は脱ぎ捨てたパンツからスマホを取り出すと、電源をつけながらベッドにダイブした。
Twitterを開き、通知ボタンを押す。少し緊張したが、時間もかけずにすぐに開いてくれた。使えなかったら、もう俺は暇で暇で死んでいただろう。
Twitterは、2ヶ月前に始めた。
それまでは2chで書き込みまくっていたが、俺は途中で耐えきれなくなって止めてしまった。2chに書き込む奴らは、匿名だからいい気になって言いたいことを書きまくる。制限もないし、物事に対する理解も中途半端だから議論が破綻していても、誰も止めようとはしない。それに、自分たちがアホなのを自分自身にバラしたくないから、なんとか他人を傷つけて、自分が正しいことを証明しようと続けようとする。挙げ句の果てにはみんなすっぽかして、今までの事をなかったことにする。そんなことは、もうしたくない。
Twitterを始めた当初は少し不安だったが、いろんなツイートを見ていると、俺と同じような日々を過ごしている奴らがいた。そのおかげで俺の日々の生活での不満やらをつぶやいていると、同類の奴らが面白がって来てくれた。
フォロワーやいいねが増えていくと、自分が認められたような気がして、俺はどんどんTwitterにのめり込んでいった。
少しぼーっとしていたが、気を取り戻すと新しい通知が来ていた。どうも、3人ほどフォローしてきたらしい。一人一人のプロフィールをチェックしていく。
最初の猫をアイコンにしている奴は、大学生のようだ。過去のツイートを見るが、ほとんど適当に呟いているだけで、余り目立ったことはしていない。友達と繋がるためのアカウントだろう。友達がいやがんのか。ブロック。
2番目のアイコンは、何かのマークのようだ。名前を見てみると、「暑い夏にピッタリ!インスタント冷やしうどん!(デカ盛り製麺)」と書かれていた。企業がよくやる宣伝用Twitterだ。ブロック。
3番目のアイコンは、写真が載っていない。人の形のマークだけだ。少し怪しさが漂っている。過去のツイートを見てみると、「大学の授業はスマホするか寝るかで終了」とか「おいおいイケメンホストが捕まったって。ザマア。」俺と同じようなことをツイートしている。名前を見てみると、「社会のノミ」と書かれていた。
俺はすぐさま相互フォローし、DMでメッセージを送った。
「こんにちは。ネットの中だけでも、言いたいことを言い合いましょうっと」
今現在、俺のフォロワーはこれで5人になった。ちなみに、俺のアカウントの名前は「近所の野良犬が唯一の友達」である。自己紹介はしておらず、自分でもネーミングセンスねえなと思うくらい何のひねりもない名前だ。基本的には、いつも厳重に審査した社会の底辺にいるフォロワーを寄せ集めて、社会への不満を垂れ流し合っている。
「マジで今日の講義、糞だったわ。講師のババアが急に俺を当てて、この文章を読んで下さいとか言ってきやがった。しかも、俺が焦って噛んだときのパリピどもの目つき。あいつ等マジで死ね。お前らなんかなぁ、まともな就職先なんてねーから一生ブラックの社蓄だ。ザマア」
俺は無意識に、言いながら文章を打つ。ツイートをすると、また次々と次のツイートを書き始める。
「糞学校から帰る途中で、JKとすれ違った。そのJKすれ違う瞬間に俺の顔チラッと見て笑いやがった。その場で犯してやろうかとも思ったが、そいつブスだったから止めといた。俺の童貞はもっと美人に上げたい」
「糞ブスとすれ違ったあと、国の犬が前から歩いてきた。ワザと肩をぶつけて、舌打ちしてやったwww.」
しばらく待っていると、続々とリプがされ始めた。
「JKってだけで価値があると思ってる奴全員死ね」
「国の犬って公務員のことか?オモロい例えするな」
「俺も今日の講義糞だった。即刻寝てやった」
「やべえ夕日がきれい」
そのリプには、部屋のベランダから撮ったと思われる夕日の写真が載せてあった。俺はそれを見ると、すぐさまベッドから起き上がり、ベランダで同じような写真を撮った。
「本当だ!きれいですね!」
夕日の画像を載せ、そう返信した。確かにきれいだ。朱を含んだ紫陽花色の夕空が、街を暖かく包み込んでいく。こういうものを見ると、心が温まっていくかなぁと思うが、なかなかそうはいかない。なんで温まらないんだろ?癒やしが欲しい・・・。
俺はベランダからベッドへ再びダイブすると、またTwitterの返信やツイートに明け暮れた。
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