第6話 奨学金という名の借金
「お兄ちゃん・・・いっぱい出たね」
主人公の妹、小百合が膝の上に這いつくばりながら言った。俺はセーブデータを上書き保存し、パソコンを閉じた。
時計を見ると、10時を過ぎていた。どうやら、2時間ほどやっていたらしい。
「ちょっと焦らしすぎたな…」
スマホを手にとり、電源を入れてTwitterを確認。新しいツイートを見ていきながら、机の上に無造作に置かれたティッシュの山からテレビのリモコンを取り出し、電源をつけた。
しばらく待っていると、画面が明るく切り替わる。ニュース番組が映った。
「今日、西東京甲子園大会地区予選決勝を久野市工業高校が匙山北高校との戦いに勝利し、2年ぶりの甲子園への切符を手にしました」
キャスターが無表情で言うと、VTRが流れた。8回の裏で久野原工業高校が逆転し、勝利を収めたらしい。野球にはあまり興味が無いが、こういう逆転劇には心が奮い立つ。
匙山北高校の生徒が悔し涙をするシーンが流れた。
「来年こそは、先輩の意志を継いで必ず甲子園行きます!」
「うわ~~~うわ~~~」
その中には、泣いている先輩を背に嘘泣きをしながらカッコ良くコメントを述べる偽善者や、地面に座り込んでただただ泣き叫ぶだけの姿もあった。
全員いい負け犬姿だ。できればそのまま他のこともうまく行かなくなって落ちていって欲しい。
次に、優勝インタビューに切り替わった。いかにも丸刈りの野球少年という感じの男の子が映る。
「今のお気持ちは?」
「めっちゃうれしいです!」
男の子が元気な声で言った。
「甲子園への意気込みをきかせて下さい」
「甲子園に行ったら、悔いの残らないように全力で、応援してくれる皆さんに恩返しができるように頑張りた」
「ピ」
俺は男の子が言い終わらないうちにテレビを切った。消えていたスマホの電源を再び入れ、Twitterを開く。
「将来が有望な奴の言葉は正直凹む。目が輝いていて、素直に顔を直視できない。昔の俺にもああいう時期があった。何でもできるような、自信に満ち溢れた時期。だが俺は今、厳しい現実に叩き潰されてここにいる。こいつもどうせ2回戦くらいで負けて気づくだろう。負のスパイラルは止まってくれない」
そうツイートすると、10秒ほどでいいねとリプがきた。
「なんかポエミー。いいね」
「本物だからこそ言葉が染み入る」
俺は一連のリプを見終わると、Twitterを閉じた。リプをされても同じような言葉ばっかなので、流石に飽きてくる。
どのアプリを開こうか迷ったあげく、YouTubeを開いた。パリピ系yotuberは死んでも見ないので、「芸人 コント」と検索した。
それから俺はネタを何本か見た後、オススメの動画から気になる動画を片っ端から見漁った。
どれくらい経っただろうか。動画にも飽きた頃に時計を見ると、針は11時35分を指し示していた。
YouTubeを閉じ、画面を横にスクロールをすると、LINEのアプリ上に「5」と表示されていた。アプリをタッチして開くと、俺は一番上の「ババア」と書かれたアイコンをタッチした。誰が送ってきたかは、見当はついている。
「ねえ裕二、家に大学さんから奨学金請求のお知らせっていうのが届いたんやけどこれ間違いよね、あんたじゃないよね?」
その他、不在着信が5件。ついにバレた。俺はこうゆう親からの圧力には慣れた。そのため、携帯の着信はoffにしている。
「ババア、金振り込んでおけ」
俺はそう殴るように書くと、すぐにLINEを閉じた。
奨学金くらいがなんだよ。何度も電話かけやがって。顔がキモイのも、頭が悪いのも、金が無いのも全部お前らのせいなんだぞ?わかってんのか。お前らは気持ちいいことが出来たのかもしれねーが、そのおかげで俺がこうやって苦しむハメになってんだ。俺を生んだツケはきっちり払ってもらわねーとな。
俺は思ったことをそのままツイートすると、スマホを机の上に置き、イスから立ち上がってベッドに寝ころんだ。
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