普段優しい人は、キレると怖い。

「ふぅ、あと少しでコントロールルームです。本部長のヴェースはマザー……いえ、ネイトを別にすれば、我々の最高司令官だった男です。彼ならば何かを知っているはず。いつもメンバーを気に掛けてくれるとても良い人です」


 洗脳は解ける。一体いつネイトに乗っ取られたのか、その人なら分かるのかな。


 俺達は広い廊下をひたすら進む。

 エレベーターもつかえるが、わざわざ罠に飛び込むようなものだ。


 侵入者対策なのか、階段はフロアにバラバラに存在し、上に行くには階を蛇行するしかない。上をぶち抜こうとも思ったが、ダイゴ曰く、オススメはしないとの事だ。


「そして最上階にいるネイトに会う、そういう作戦でしたね? 私は破壊以外の選択肢を持ちませんがねぇ」


「トラップです、破壊します」


 ダイゴはトラップを検知し次第、即座に破壊していく。さすがAIだ。


「そうです。しかしネイトはAI、どこにでも居られるし、どこにでもいます。どうやって…………続きは後です。次、上級職員が来ます」


「誰が来るんです? シャリエ先輩」


「…………A級アネモネと、B級シェパーズパースとウィステリア、そしてC級デンドロビウム、アナタにも私にもやりずらいわね!飛翔体接近!来ます!」


 シャリエがそう言った矢先、彼女の放ったパルス弾がこちらに向かっていたであろう何かを破壊する。


 重い金属音を放ちつつ、下に落ちた物。鉄の棒?針?いやこれは……


「ヒタチ、これは棒手裏剣です。忍者ですね。おっと、敵急接近、迎撃します」


 ダイゴの放つフェイズライフルの連射を回避し、高速で接近する女性が一人。

 オレは守谷の力を解放、シールドを張って女性が放つ飛び蹴りを防御する。


「させないよ!」


「イッテェ!」


 しかし前で防御したはずの攻撃が背中にぶち当たる。後方にもイバライトの通常防御フィールドが展開されている為、背骨は無事だったが…………やっべぇ、直撃したら身体が真っ二つだったかも。


「テリア先輩! パース先輩!やめてください!これには訳があるんです! 我々はAIに乗っ取られているんです!」


 エリナがくノ一みたいな女性の刀を剣で受けながら、必死に訴えている。そりゃそうだよな。仲の良い人もいるわけで。


「私、アナタのようなかわい子ちゃんの先輩になった覚えはないわよ?いたら可愛がるもの」


 ん?


「先輩!私です、音辻……いえ、ストレプトカーパスです!」


「すとれぷとかーぱす?アナタね、罠にしてはレベルが低いんじゃない?」


  ダメだ。全く通じていない。もしかし無くても記憶が上書きされているのか。コントローラーズから一度離脱するとこうなるのか。


 そして、もう片方でも同じ事が起きているようだ。


「うぅむ、数日ぶりですなぁ」


「どうしたのです!私です、アネモネ!」


「?」


 弓を持った女性。

 アネモネと呼ばれたその人は、ペイグマリオン戦で共闘した女性だ。風を操る能力を持っており、シャリエさんを必死に助けようとした人だったはずだが、今はシャリエさんに弓を引き、ペイグマリオンがそれを防いでいる。


「脳波測定完了。彼女たちは記憶を上書きされているようですね。迎撃します」


 鉄扇を持った女性がカシマに殴りかかるが、なんだろうあれ。


 鉄線を広げ、何らかの能力を発動したと思われるが、何も起きない。


「アーッ!またハズレ引いた!」


「「「痛っ!」」」


 その時、戦場になっている廊下に、薄い金属板が落ちたかのような甲高い金属音が鳴り響く。


 タライだ、タライが頭上に落ちてきたのである。しかも俺たちだけではなく、敵味方全員にだ。なんだこれは?ド〇フのコントか!


「あれはデンドロビウム先輩の能力、『ランダム』です!文字通り何が起きるかわかりません!」


 えっ、何それ怖い。本人も苦労してそうだなぁそれ…………。


「別にランダムって訳じゃないんだけどね、ワガママなだけなのよ!っていうかアンタなんでしってんの!?」


 カシマの放つフェイズガンを回避し、デンドロビウムが叫んでいる。


 さて、こちらもてんてこ舞いだ。

 ウェステリアと呼ばれたこの女性、全く捉えられないのだ。


「痛てぇ!」


「チィィイ!硬い!」


「そりゃどうも!フッ!」


 こちらから攻撃すれば眼前から消え、後ろから攻撃が飛んでくる。

 相手に攻撃すると、真横から反撃が飛んでくる。

 なんだこれは!?


 《どうやら先程から、その女性はヒタチの死角へと超近距離転移を繰り返しているようです》


 死角に短距離ワープ!?

 すげぇな!しかし武器は脚に装着しているアーマーのみ、どうやら脚力を増加させているようだ。


 くノ一を倒したエリナがこちらに向かってくる。超音波レーザーを回避し、俺と並んでウェステリアと向かい合う。


「テリア先輩、目を覚ましてください。アナタは操られています」


「操られている? あなた、どこの所属か知らないけど、リベレーターと攻め込んできてタダで済むと思っているの? 」


 そりゃそうだよなぁ、普通に侵入者だもん俺たち。


「え〜っと、エリナさん?」


「エリナです!」


「エリナ、うん、エリナ。ここでは大規模な攻撃が使えない。だから牽制しつつ、ちょっと俺から離れてくれ」


「え?全員吹き飛ばしても回復できますよね?ヒタチさんなら」


 これは信頼なのだろうか。

 なんだかやたら物騒な気がしないでもないが……。


「あー、大丈夫、任せてくれ、全員はぶっ飛ばさないから」


「了解!カシマさんに加勢します!」


 信頼、してくれているんだなぁ多分。


 さて、オレは先程、散々メロンと呼ばれたこの鉾田市の力により召喚される鉾を『イバラキング』と名付けたのだが…………まぁ特に代わりもなく、相変わらず天沼矛と概念が混ざった武器の変換能力を用いて戦っている。


 コイツは非常に使い勝手が良い。

 例えば、死角を攻めてくるのであれば、死角に罠を設置すれば良いたわけだ。


 オレはウェステリアに向かって鉾で突撃、彼女に当たる直前鉾を地面に突き刺し、俺の視界外の広い範囲の摩擦を全て、限りなくゼロに近くする。ツルッツルの潤滑油状態だ。


 すると、やはり…………


「なっなんだ!?うわっ!」


 ウェスティリアは脚部の強化アーマーで戦闘を行う。つまり足元には相当力がかかっているはずだ。つまり普通に踏み抜けば、誰だって滑る。


「申し訳ないけど、せいっ!」


「アアアァァァァァァ…………」


 ウェステリアは彼女の足元に開いた明野の空間へと落ちていく。これで洗脳は解けるだろう。

 ついでにシェパーズパースと呼ばれているくノ一も落とす。


 《あら、大量ね!因みに今は洗脳解けた人に講義中よ? 女教師スーツ観たい?観たいでしょ? 》


 《えっ、いいです》


 《酷いっ!》


 放り投げた人間はアムトリスに任せ、次に向かう。


 アネモネはシャリエの放つパルス弾を空気操作で湾曲させ防御しつつ、空気で作りだした剣でペイグマリオンに切り掛る。


「君には酷い目に合わされたね、音辻くんにはタップリと苦情を言ったがね?」


「人形は使わないのっ!ねっ!」


 ペイグマリオンは攻撃を軽くかわし、そして捌いていく、どうやら二度目はパターンを覚えて対処しているらしい。怖っ!


「アンタ!なんでコントラーラーズの制服着てんのよ!」


 アネモネはバク転を三連続し、ペイグマリオンとの距離をとり、同時にシャリエさんに光の弓を放つ。


 しかしそれもペイグマリオンの紅い光に飲み込まれる。


「いやはや、友情とは儚いものだ…………この場合は裏切りとは言えませんがねぇ」


「ありがとっ!でも冗談言ってる場合ですか!」


「敵は……殺す!」


「ちょっとあなたね……いい加減に…………」


「シャ、シャリエくん……?」


 おおっと!よそ見してる場合じゃない!


「チェェェエストォォォォォ!」


 あっぶねぇぇえええ!?


 鉄扇を振り下ろすデンドロビウムの攻撃を咄嗟に回避する。


 なんだろう、タライが落ちてきたのは初めてだが…………この人の能力、意味がわからない。


 まぁ人の事言えないけど…………


 攻撃を弾きつつ、相手の能力を警戒する。

 防御に前振りだ!


「仕事よ!ワガママ美人さんっ!」



 ――――なにか来るっ!


 ――――何かっ!


 …………あれ?



 ……あれ?



 …?



 周囲を警戒する。

 上、左、右、下、そしてまた上、よし!タライは無いな!


 そしてうん、居なくなった。

 えっともしかして、自滅?どっかに吹っ飛んだ?


 よ、よし、ペイグマリオン達を気を取り直して加勢だ!


 っと思いきや、あっちも勝負は着いていたようだ。


 シャリエさんがアネモネをお姫様抱っこしていた。


 見かけによらず、意外と力あるんですね…………。


「ヒタチ君、ちょっといいかね?」


 一勝負着いたペイグマリオンが俺を呼び止める。一体なんだろうか、若干顔が引きつっているが……。


「いいかねヒタチ君、突然だが私の年齢は73歳だ」


 突然だなおい!そんな年取ってんのか!

 てっきり40くらいだと思っていたが…………。進化人類すげぇ…………。

 でも何なんだ突然?


「あー、ペイグマリオン?どうしたんだ?」


「いやね、そんな私から、君にひとつ忠告がある」


「え?あ、うん」


「いいかね、シャリエくんを怒らせてはいけないよ? 絶対だ。絶対にだ。いいね?彼女を止めるのは精神感応しかないようだ」


 取り敢えずは頷いたが、一体何が起きたんだろうか…………。


「ヒタチさん、彼女をお願いしますね?」


「えっ?ああ、もちろん、うん?うん」


 ニッコリと笑っているシャリエさんが手渡す彼女。


 その答えは、ボコボコで腕がへし折れている姿を見れば一目瞭然だった。


 さて、気を取り直して先に進もう。


 次は中央司令室だ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る