強敵、そして補導される変態

 ヴェルトメテオールは今、気分的にパルスライフルを避けている。


 実際の所、彼は攻撃を避ける必要性は全く無い。加速フィールド形成中の彼は物理的、光学的な攻撃を一切受け付けないからだ。


 そもそも光より速く動く彼からしてみれば、パルスライフルの攻撃など止まっているようにしか見えないだろう。


 では、何故避けるのか?


 それは、この世界には特殊能力を持つ者が数多くいるからだ。

 実際、コントローラーズにも彼を倒す可能性のある上級職員は存在している。


 例えばミト・ヒタチの元にいたアングレカムだ。


 彼女の場合は、位置測定と予測により動きを読まれてしまう為、味方とリンクされた場合非常に厄介ではあったが、今回は運良く味方側だ。


「もうヤダこいつぅぅううう!止まりなさい!当たったらスピード落とせんのにぃ!」


 その他に、反射能力を持つSクラス職員ドッグウッド、非接触能力を持つバルサム、そして今ヴェルトに向かい光線を放った変態に妃と呼ばれたこの女性。


 相手の時間を自在に遅滞させる能力を持つ、ユーパトリムだろう。


 ユーパトリウムは、ヴェルトの加速能力にとって最も危険な能力者だ。多分今回も真っ先に潰す事になるだろうというのは、予想がつくだろう。


「ユーパトリムキュン! 会いたかったよォ! 久しぶり!」


「私は会いたくなかったわよ!死ね!ヘンタイ! 」


 ヴェルトはユーパトリムの剣先から放たれた遅滞光線をリズムを刻むかの如く回避、右手をユーパトリムの方へ向ける。中指を丸めて親指で押さえ、軽く、それはもう軽く空気中をデコピンの要領で弾く。


「クヒィッ! 最高だよぉ!良いプレイだよぉ! もっと責めてぇぇええ! 」


 ヴェルトによって超音速で打ち出された指により、衝撃波が発生する。指パッチンでソニックブームを発生させたのだ。


「ヤバっ! 避けられな!? グヘェッ! 」


 Aクラス戦闘職員、ユーパトリムはオムニフィールドを展開したが、悲しいかな間に合わずに直撃し、気絶する。ヴェルトは人死を嫌うため、絶妙に威力を調整して放つのだ。


「悪い子はポケットにナイナイしましょうねぇ。カワイイなぁ!カワイイなぁ!ユーパトリムキュゥゥウン!はァ、ハァハァ!後でヒタチキュンと一緒に遊ばないとねぇ――――クヒッ!」


 外見は大変危険な変態に見えるが、決して悪ではない。彼は一般戦闘職員が騙され、脳を利用された被害者だと知った直後、協力者の手を汚すまいと即座にエリア内全ての一般戦闘職員生産施設を破壊したのだ。


 もう一度言うが、彼は悪ではない。


 例え万遍の笑みを浮かべながら、スク水の破けた股間部分に発生させた亜空間に、ユーパトリムを放り投げ恍惚の表情を浮かべて興奮していてもだ。


 そして、股間の膨らみは決して興奮している為では無い。亜空間を発生させている為なのだ。きっとそうだ。


「浄化せよ! ヒソップ! 」


 恍惚の表情を浮かべ、制止していたヴェルトの頭上に、ブースターにより加速して威力を増したブーストアックスが振り下ろされる。


 ヒソップの能力は浄化。

 雑菌から放射能まで触れた物を全て浄化し、能力発動時に人体に触れれば血液すら水に変えてしまう強力なSクラス能力だ。


「残念、それは残像なのです」


「そんな…………ッ! ガハッ!」


 興奮し、超高速でのたうち回っていたヴェルトだが、普通の人間の目にはハッキリと残像が残るレベルの速度が出ているのだ。


 ヴェルトはヒソップの胸を軽く指で突き、彼女を撃破、うなじをサラサラと触った後、やはり恍惚の表情を浮かべて股間の亜空間に彼女を放り込む。


「触っちゃった! あ〜いい、すごく良い…………クヒッ!クヒヒッ!」


 ヴェルトは敵の主戦力を即座に叩きつつ、増援に駆けつけた一般戦闘職員を走り去り際のソニックブームで破壊する。


「どうしてこんなことばかり考えるのですか!人として! 進化した人類としての誇りはないんですか! ヘンタイ!」


 シルバーグラスの罵りなど、彼にとってはご褒美以外の何物でもない。


「もっと激しく!もっと詰って!もっとぉぉ! ああっ!鞭! 当たっちゃダメだけど当たりたいぃぃいい! もっとおおおおおお! でも、でも僕はヘンタイジャナイイィィイイイ!」


「ヒィぃぃぃぃ!」


 コントローラーズ側は、Aクラス職員であるシルバーグラスの読心能力により、ヴェルトの思考を読みとって戦いを有利に進めるハズだった。


 しかし、ヴェルトが考えるのは戦略などではなく変態的な妄想ばかりだった為、全く役に立っていないという悲劇が起きている。


 戦略が崩壊した今、コントローラーズ側の敗北は決定付けられたと言える。


 Bクラス職員、サントリナによる敵対者の強制ワープ能力は、超光速を出せる彼には無意味であり、追い込む状況すら作れない。

 エリア内だとすぐに戻ってくるのだ。


 そしてもう一人、獣のような外見の筋肉質の、両手に鋭いクローを装備した男性、グラジオラスは、時間経過によって破壊力が増大していく能力をもっているが、ヴェルト相手に時間経過を考えるのもたまたま無意味だ。


  2人は纏めて空気デコピンによる衝撃波で気絶し、股間に吸い込まれていく。


 マッチョな男がスク水を履いた男の股間に吸い込まれていく様は、それを見ていた他の上級戦闘職員の心を砕くのには、十分な光景だった。まさに地獄絵図である。


 そこに、超スピードでナイフを突き付ける、イヤホンを付けた男が一人。

 Aクラス職員、ジニアである。彼の能力は超集中。


 人間の潜在能力を極限まで引き出し、ヒトとは思えないほどの動きでナイフを振り回す姿は、街中にいれば恐ろしい通り魔にしか見えない。


「スカビオサ!お前の能力は使うなよ!ちっ、速い! 」


「絶対イヤです! 使えません! 」


 しかし、ヒトの限界をいくら引き出したとしても、いや、平均的なリベレーター相手であれば彼は半々の確率で勝利を収めるだろうが。


 しかし相手は超加速能力者、今回は相手が悪かった。


 そして、スカビオサの能力、それは『武装解除』


 ヴェルトメテオールは現在、股間に亜空間を発生させながら、はだけたボロボロのスクール水着しか履いている。つまり武装解除を使用すれば素っ裸になるだけなのだ。


 ヴェルトは、周りが殆ど停止している中、彼にとって遅くはあるが、ゆっくりと、そしてスムーズに動いているジニアの投げたナイフを避け、彼の腕を捻り、そのまま身体を地面に叩きつけた後、股間にしまい込む。


 そしてナイフが飛んだ方向、スカピオサノ眼前にあるナイフを掴み取り、戦闘職員達がいる場所とは違う、腋に生成した亜空間へと放り込む。


 ヒタチにウォッシュメントの回収も依頼されているのだ。


「――――ハッ!」


 スカビオサは眼前に迫っていたナイフに対し、恐怖により回避もままならなかったが、眼前にあったナイフが消えている事に驚いた。


「危ないなぁ、味方に当てるなんてダメでしょうが」


「あ、ありが…………カハッ!」


 ヴェルトは衝撃波をスカビオサにぶち当て、彼女を気絶、そして股間に放り投げる。


「どういたしまして!」


 彼は悪人では無い。ちょっとイッちゃってるだけで。


 誘惑能力を持つ、やたらエロいアスターに対し、元から好きでしたと撃破。


 レーザー誘導能力を持つラナンキュラスに対し、レーザー以上の速度で回避しつつ撃破。


 指定したものに恋愛感情を錯覚させるマーガレットは、元々初めから幻惑をかけていたにも関わらず効果も無く、撃破。


 残る上級戦闘職員は、Sクラス、非接触能力を持つバルサム、自身の状態を完全に維持する防御力前振りな2人組、そして、相手の行動を封印する能力を持つ、アンテリナムのみだ。


 アンテリナムはヴェルトメテオールに対して走る事を禁じる。


 しかし、ヴェルトは競歩で移動する。それでも光速以上だ。


 アンテリナムは足の動きを禁じる。


 しかし、ヴェルトは足を動かさず、逆立ちで光速を突破する。


 アンテリナムは手足の使用を禁じる。


 ここで、ヴェルトは盛大にズッコケ、頭を地面に叩きつける。


「ぐえっ!」


 ヴェルトメテオール、一般戦闘職員生産工場の爆発にうっかり巻き込まれて以来、初のダメージである。流石に手足を動かせなければ、彼だってコケる。


「やったか!」


 しかし、彼は落ちている小石を口に含み、そのままプッと口から放つ。


 しかし、小石は音速を突破し、アンテリナムのすぐ横を通り、盛大な衝撃を発生させる。


 アンテリナムの能力が解除され、彼はヴェルトの股間へと消えていく。


「ぜ、全滅なんて! こ、こんなバケモノ、どうやって倒せば良いの…………?」


 Sクラス戦闘職員バルサムは、絶対非接触能力を持つ。彼女に対しての攻撃は全く通ることは無く、例え核ミサイルでも熱は通さない。しかし、毒や放射線は通ってしまうが。


「私たちでは、どうしようも無いな」


 もう一人のSクラス戦闘職員、スターチス。

 彼は完全状態維持の能力を持つ。彼は保存した時点での自分のコンディションを、何が起こっても維持できるという時間的能力を持つ。

 ゲームでいう、セーブの能力だ。


 流石に、防御前振りの能力者相手であると、ヴェルトは手が出せない。彼の能力はある意味物理的なものだからだ。


 やろうと思えば2人を掴んだまま、宇宙空間に放り投げる事も出来るのだが。


「うむ。そろそろ撤退するかな? 大体全滅させたし? ああ、しかし、ああ…………亜空間が動く、キモチイイ――――うん?…………なっなんだ!? 」


 ヴェルトの意識はそこで一瞬途切れる事になる。ヴェルトの走り回るコンクリートで舗装された道路、そしてヴェルト自身が爆発したのだ。


「…………ハッ! バカな、僕に当てるだと!? 」


 ヴェルトは高速、いや、光をも超えた光速移動を行いながらギザギザに走り、不可視の攻撃を回避しようと試みる。


 しかし、不可視の攻撃がヴェルトの身体で連続して炸裂していく。


「マズイッ!調子に乗りすぎたかっ!……カハッ!」


「皆、こんなのに手こずるなんてな〜! もう転職しようかな〜! エーデちゃん! とっ捕まえて! 」


 鮮やかなオレンジ色の鋭い髪と猫のようにしなやかな風貌。彼女の周囲には形態がコロコロと変化している謎の物質が回り続けている。


「アイアイ」


「さ、させるかっ! まだエロ本読み切って無いんだぞ! 誰なんだね君達は! 」


 ヴェルトの放つ真空カマイタチを、もう一人の金髪の女性がシールドで、そして更に続く二発目、三発目を剣で掻き消す。


「バカなっ! なぜこんなにも!まるで上級リベレーターじゃないか!こんな事人間には!」


「そりゃそうよ。私達、アナタのお仲間だもの。初めまして、ヴェルトメテオール、私はストレリチア、万能のストレリチア、あとそれじゃキモイから、これ着てね!」


「コイツはどうせアレに使うんだろ?……会話するなんて……まぁいいか。どうも、エーデルワイスだ」


「リベレーターだと!そんな…………ん?んん?ヌァアアアア!」


 ヴェルトが気が付くと、彼はライダースーツのような滑らかな服を着させられていた。超光速で移動する事が出来る彼に気が付かれずに。


「ぼ、僕にこんなものをきさせるなんてぇぇえええええ!」


「エッそっちなの? ねぇ、そっちなの?まぁいっか。フッ!」


 ヴェルトはエーデルワイスの腹パンチにより、意識を失い、そのまま空中に浮き上がる。


「こんなもん持ちたくないから……うん、直接飛ばそ!全てを手にしろ!ストレリチア!」


 そのまま彼は光り輝き、どこかへと転送される。


「ねぇねぇこのまま全員ぶっ殺す? 暇だし!」


「そんなこと言うとまた……あっ」


 彼女達の着けているARスキャナーに、映像が映し出される。彼女達は定期的に洗脳し直さなければ反乱を起こす可能性が高い、非常に危険な存在なのだ。


「了解、引き続き投射装置の防衛に回ります」


 そうして彼女達が去った後、残骸だらけの後に残ったのは、バルサムとスターチスの二人だけ。


 しかし、二人は爆発の余波を受けて倒れていた。

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