ドキドキハート・カンファレンス

 伝説のフォーム、ジャパニーズ土下座を解除し、軽く会議をする。

 まさかここまで容易く精神攻撃を食らうとは思わなかった。


「ウォッシュメント、洗脳能力があるとは聞いていたが、ここまでとは思わなかった。自然に殺意が湧いてきたぞ? しかもいきなりだ。二人とも、なんで普段から敵に使わないんだ?」


「ウォッシュメントの洗脳機能は余程相手の精神ががら空きじゃないと使えませんね! よっぽど安心してるか、コントローラーズを信頼してくれていれば、問題は無いんです」


「そうね。でも彼女達、アマリリスとジョーンズワートはその中でもちょっと特殊でして、洗脳機能を特化させた能力なのです。私達はもう洗脳機能は使えませんが。あれはオムニフラグメント由来の力なので。彼女達とは割と仲が良かったので、まさかここまで容赦なく来るとは」


 音辻さんとシャリエさんが土下座しながら答えている。もう良いんだよ、もう良いんだ。あ、見えてないのか、土下座中だから。


 二人を起こして会議を再開する。


「なるほどなぁ、ならもう一人は? 」


「彼女はSクラス職員、ドッグウッドですね。彼女の能力は反射、ありとあらゆる攻撃を反射して相手に返します。今回は溺れましたが」


 ありがとう龍ケ崎。これが無ければ割とマジでヤバかったかも知れない。しかし当たり前だが、罠はあったわけか。多数の職員をヴェルトさんが抑えているとは言え、コントローラーズもとんでもない奴らをかかえているもんだ。


「シャリエさん、因みに精神系の能力者って他にもいるんだっけ?いや、聞いた話だと割と多かったような」


「ここまでの精神操作能力者は多くないですが……危険なのは夢見のアスターと読心のシルバーグラス、そして記憶のカランコエくらいですかね。あとは戦闘向けではありません」


「リベレーターは脳が通常の人間よりも複雑な為、その手の能力には耐性があるんですが、その分思考も複雑でしてねぇ…………」


「な、なるほど」


 ペイグマリオンが言うと凄まじい説得力だ。今はかなりマトモになっているが、相当イカれてたもん。正直怖かった。滅茶苦茶怖かった。


 多分だが、元は仲間思いというか、気が利くというか、まぁそんな性格だったのだろう。何があってあんな事になったのかは分からんが。


「ネイトの居場所は、まだ分からないよな」


「Y、ここはオムニ反応が高すぎて判定が不能です。そもそもオムニ反応センサー自体も精度が不安定であり、比較的近距離しか判定できません」


「だよなぁ」


「でも外部の戦闘を感知しています。チラチラとアングレカムを通して光速で動く影が見えています。速すぎて感知が難しいですが、そんな人間はただ一人、ヴェルトメテオールです。彼は一人で十人を相手取って戦っています」


「特殊能力者相手に一対十!? ヴェルトさん、やっぱり超強いんだな、変態だけど…………」


「いえ、既に」


 ま、まさかやられたんじゃ……


「す、既に? 」


「既に、Sクラス職員ヒソップ、Aクラス職員ユーパトリム、Bクラス職員サントリナ、グラジオラス、シレネの五人を行動不能にしています。どうやら亜空間に放り投げているようです。あ、今Aクラスのシルバーグラスを倒しました」


「とんでもねぇな! 」


 俺のアーカイブは無駄では無かったことが証明された。いいかい? 証明されたのだ。オーライ?


 さて、何やかんやで回収したオムニフラグメントを崩壊させる。この地球上にある高純度のオムニフラグメントを一定数破壊する事により、可能性の力であるイバライトの威力と効果が増していく。


 つまり、一定数を破壊した時点でアムトリスが介入出来るようになる。

 その時点で、俺達の目標は達成される。

 なにせダイゴの予測だと、この異世界の地球はオムニフラグメントによりあと75年で可能性を使い果たし、消滅するらしい。


 余裕はあまりないのだ。


「そうそう、あの水の龍は一体なんだったんです?」


 音辻さんが俺の肩をつんつんと突き、質問を投げかける。


「俺の住んでる茨城……イバラキエリアに、龍ケ崎って場所があってね、そこは竜巻が水を吸い上げて龍の昇る姿に見えたとか、水龍が雨をふらせて落ちた先がその龍ケ崎だったとか、そういう言い伝えがあるんだ」


「それで水の龍ですかぁ、なるほど!あと、私のことは音辻さんではなくエリナと呼んでくださいね。ヒタチさん」


 え、何?


 なんだろう、なんでだろう。


 え? 本当に何? どうしたの?


 俺はひたすら困惑してウンウンと頷く。思わず目がキョロキョロしてしまい、ダイゴと目が合うと…………アイツ!あのニヤケ顔は何だこの野郎!ちくしょう覚えてろよ!


 《音辻さんの距離感がやたらと近い。正直に言うと、非常に居心地が悪い。いや、良い?いや悪い?うん、慣れない、これが正しい。

 だってモテなかったんだもん。もちろん女友達はいたよ?でも友達止まりで毎回言われるんだ。


「ヒタチ君って、良い人だよね!」


 そうさ、毎回良い人止まりだ。良い人止まりでその先は…………うん。そりゃ音辻さんは美人さんだ。


 キリッとした鋭い目付き、キッパリとした気取らなく、新しい物に飛び付くけど、正直何考えてるかわからないミステリアスな性格、スレンダーな体型、まさに俺の好みと言って良い。


 でも女の子に近寄られるのは……慣れない。

 どうしよう、どうしようか、どうしよもないぞ!――――――――なんて事を考えていますね? だんな様》


「uh-oh〜」


 イケナイイケナイ。オモワズコエガモレテジッタゾ。


「 ? 」


 ほら見ろ、音辻さんも首を傾げておいでだぞ?


 《さすがカシマ、一語一句その通りだ、その通りだけど、俺に言う意味あったかな!? 》


 カシマめ……遊んでやがる!

 AIの演算処理能力と予測能力は人間の比じゃない、ましてアムトリスカスタム済だ。まさか完全に思考をトレースされるとは……!


 《青春を謳歌するのも観ていて楽しいのですが、14min、そろそろ行動開始です》


「あ〜、音辻さん、そろそろ15分経つのでその、戦闘開始です、ほら、ヴェルトさんも先行してるし何が起きるかもわからない」


「エ・リ・ナ・で・す! ヒタチさん! 」


「え、エリナ」


 《やっぱ明らかに好意を持たれているよ!だって距離近いもん!ほら、よくあるでしょ?男の勘違いってやつ。そうだそうだ。勘違いさ! ――――――――なんてお考えですね? 》


「カシマァァァァアアア! 」


「テヘッ!」


「おぉ? どうかしましたか? 」


「な、なんでもないよ、ところでそれ、やっぱり良い人形だね! よく出来てるわ!」


「愛しています!ペイグマリオン!」


「でしょう? 」


うん、本人は絶対言わないだろうな。うん。

まぁペイグマリオンが朗らかにうんうん頷いてるし、まぁいいか。なんか目線が遠いけど。


 《因みに勘違いではありませんよ、音辻エリナのミト・ヒタチに対する好感度はかなり上昇しています。これは恋愛感情と言って良いでしょう。良かったですね!だんな様! 》


 ――――――――ハズッ!


「あ〜、皆、休憩は終わりだ。色々あったけど、引き続きネイトを探そう。改めて済まなかった。あと、ありがとう」


「そもそも、普通はこんな敵地のど真ん中での休憩は不可能ですからねぇ、何とも有難い」


「アンタには世話になったしな」「いえいえ」


 出口から出る際、ペイグマリオンがカシマと何かを話しているようだ。カシマは嫌な顔をしつつ、何だか楽しそうだ。


 先程とは違う場所に出口を作り、周囲を索敵する。数十人の一般戦闘職員や防衛機構を破壊しつつ、引き続き敵地に乗り込む。


「ヒタチさんっ!」


「はっ、ハイ!」


「私を二回も守ってくれて、ありがとっ!」


「あ〜、い、いつでも!」


 フフっと顔を綻ばせ、音辻エリナは踊るように攻撃を躱して宙を舞う。


 白い戦闘用ライダースーツで飛び回るその姿は、まるで白鳥のように美しく…………が、頑張ろう!

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