疑心暗鬼のアマリリス
通路を抜けた先は、白い大きなホールのような場所に繋がっていた。
シャリエさんの書いた図面にこんな所は無かったはずだ。
『警告、ヒタチ、周囲のオムニ反応が急上昇しています、注…い…を』
全員の足並みが止まり、辺りを警戒する。
そりゃそうだろう。聞いていた図面と違うんだから。
《裏切られた、裏切られた、味方なんていない》
「ここは、以前とは構造が変わっていますね。警戒して進みましょう」
音辻の白々しい声が聴こえる。お前らの罠なんだろう? ここはコントローラーズの敷地内、シャリエとコイツに裏切られたんだ。
《周りは敵しかいない、全て嘘。誰も信用出来ない》
やはり自分以外は信用出来ない。イカれた殺人鬼にネイトの管理下にあった遺伝子操作超能力者の二人、そしてネイトと同じAI。
「なぜ、止まったんです? 」
「「…………」」
「シャリエさん、探知で分からなかったんですか? 敵も全く見当たらないし」
シャリエの殺気を感じる。
しかし、計画にしてはお粗末じゃないか?こんなもの、乱戦になるだけで計画としては……
《相手が武器を起動したぞ? 俺は殺される》
――――そうだ、殺される。俺はいつでも武装を展開できる。実際、元コントローラーズの二人がストレプトカーパスとアングレカムに手を伸ばした事を見逃さなかったように。
張り詰めた空気の中、俺の頬に一筋の汗が流れだす。シャリエの首の向きはこちらに向かっているような気がする。
動きを想像しろ、予測しろ、先行しろ。叩き潰せ。
その瞬間、前方で止まっていたシャリエが振り向きざまに俺の顔面に向かってパルス弾を発射する。不意をつけると思ったか?甘いんだよ!
発砲と同時に全員が動き出す。音辻がカシマに向かって超音波ビームを放ち、ペイグマリオンが瞬時に紅い亜空間バリアで防御する。
コイツらめ! とうとうボロを出したか!
俺は守谷の力を展開させ、パルス弾をかき消すと同時に、スーツの力を使って一気にパーティーから距離を取る。鉾田の力を使い、武装を展開する。
全員が円になるように距離を保ち、攻防戦が始まる。
《見て、アイツらは共謀してるよ?殺そう?殺そう?》
先程から、ペイグマリオンがカシマの前に立ち、ダイゴが牽制している。裏切り者共め! 信じてたのに! アイツらは共謀していたんだ!纏めて殺してやる!
俺は空中にフェイズライフルを三丁展開し、カシマとペイグマリオンに向かってライフルを浮かせたまま連射させる。レベル6だ。
「ダンナ様!どうしたのですか? 皆様も!」
《そう、殺し合うの。俺達は敵、周りも敵、全員敵、敵は殺す》
「そうだ、敵は…………殺す」
◇◇◇
「敵は、殺す全員は敵、敵を殺すの――――。う〜ん、やっぱりリベレーターにはあんまり私達の能力が効きませんね。しかしペイグマリオンの周りにいる二人はなんで能力が効かないんでしょ? リベレーターではなさそうだし、まさかまさかのマシン兵器? 」
サーベルの柄に向かって声を出している女性、彼女はBクラス職員、アマリリス。能力は音声や会話による精神誘導だ。
ここは、6人が集まる白いホールのとなり部屋。白いライダースーツを着込むコントローラーズ職員が三人、投影された映像で、戦闘を眺めている。各自がその手に持つそれは、サーベル、槍、そして指揮棒の形を取っている。
「我々の能力はリベレーター相手には向いていませんからね。だが、それ以外が紛れ込むなら好都合。殺しあって頂きましょう」
アマリリスと話す、指揮棒を振る男性。彼の名前はジョーンズワート、Aクラス職員であり、疑心暗鬼と敵意を持たせる事が彼の能力だ。
ジョーンズワートとアマリリスは常にコンビを組んでいる。この2人の能力は、ウォッシュメント本来の機能である洗脳を強化した物であり、そうそう抗えるものでは無い。
『誘導』と『敵意』
ジョーンズワートが対象の敵意を煽り、アマリリスが思考を誘導する。
脳が大幅に進化したリベレーターや、AIのような思考方法が全く違う相手にはイマイチ効きが悪いが、反乱者や通常の兵士相手には驚異そのものであり、敵を発見すると、施設のドームを展開し敵を誘導。殺し合いをさせてループチューブからの侵入を秘密裏に守護しているのだ。
「でも暇だよなぁ、ここまで攻めてくるやつは初めてだし、リベレーターも滅多に来ねぇしなぁ」
そしてもう1人、壁に寄りかかりながら槍を両肩で抱える銀髪の女性、Sクラス職員、ドッグウッドだ。
彼女は特殊な能力を持つ2人を護衛するのが主な仕事だ。
ジョーンズワートはアマリリスに的確なセリフを指導するが、彼女は気に入らない様子だ。傍から見れば、それは免許を取り立ての娘にあれこれ言う父親と、その父に文句を言う娘のようで微笑ましいが、やっている事は他人の殺し合いを煽るという恐ろしい行為だ。
「あ、また庇った。な〜んかやたら周りを庇いますね、特に女の子。ペイグマリオンってそんな奴でしたっけ? データと違いません? 」
「リアトリスのデータだぞ? アイツは相手なんか見てないさ、焼ければ良いんだよ。レーション焼いて焦げ目ばっか食べてるしな。アイツは絶対ガンで死ぬよ」
「それ嘘らしいですよ」
「え、マジか。俺騙されてたのか」
「え? わたしゃホントって聞いたぞぉ? 嘘なのか? 」
「どっちだよおい、って言うかどっちでもいいわ! 緩んだぞアマリリス」
「あっいけない!《攻撃を緩めなるな、殺せ!殺せ!》」
モニターの中では、音辻とシャリエ、ヒタチの激しい攻防戦、そしてダイゴとカシマがシールドを展開、ペイグマリオンと共に全員の致命傷を防いでいる。暗示の聞かないペイグマリオンとAIの二人は攻めあぐねている様子だ。
「な〜んか本気出してないように見えますね、というかあの二人、なんか見た事ある様な? ウチの制服着てません? いや、誰だっけ? 」
「え? 俺は知らんぞ? 」
「銃使いと変な形した剣使い? 私も知らん。コスプレだろ」
アマリリスがサーベル型ウォッシュメントの柄で自らの頭をコツコツと叩き、首を左右に振って思い出そうとするが、考える度にモニター越しの全員が一瞬怯み、ソニックレーザーがシャリエの肩を貫通する。
彼女は精神誘導という強力な能力を持っているが、集中力の無さという弱点も併せ持っている。持続すればリベレーターですら能力が通るのだが、如何せん上手くは行かないようだ。
「なんか決め手にかけますね〜、どうします?ジョーンズ」
「あの槍っぽいのを振り回してる赤毛、かなり攻撃が多彩だ。ペイグマリオンがなぜ防御に徹するかがわからんが、あの赤毛を重点的に使って叩き潰そう」
「あの槍っぽいの、キレイですね〜。ほら、フルーツ味の栄養パックの……」
「メロン?」
「そう!メロン!パッケージにあるやつ!ん〜、でも決め手にかけますね、もっと本気出させますかね? ちょっと心配ですけど。ここ壊れたりしませんよね?」
「この部屋は超硬質チタンとフェルマ合金の複合構造体、そこにオムニフィールドで形成されている。ここを破壊できるのは特Sクラスの連中と一部のリベレーターくらいだろう」
「じゃあ大丈夫ですね!《やれ!集中しろメロン槍!本気を出せ、大量破壊だ!》」
「あ〜?メロン槍は余計だろ…………ん?あの赤髪、なんかヤバそうなの出したぞ? あれ? こっち来ないかこれ?」
「「「…………あっ」」」
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