暗黒の破滅意思

 正直に言うと、コイツをそのまま信用するというのは有り得ない。


 大量虐殺者だぞ? いくらクローンで甦るとはいえ、それはもう、別人なんじゃないか? いや、この世界ではその考えが普通なのかもしれないが。豪に入れば郷に従え。でもこんな郷嫌だなぁ。


 それでも、納得はいかない。しかし、味方にすれば強力なのは確かだ。


「えっと、マザー、いや、ネイトとかいうAIは散々私達を利用していた訳ですよね? とりあえず、難しい事は分からないので破壊してから考えましょう! 」


 音辻さんがサラッととんでもない事を言っているような気がするが、そりゃ洗脳なんてされればキレるのも仕方が無いだろう。


「あの、アングレ……あっお名前、もう一度お聞きしても? 入った時からアングレカム先輩だったもので」


 音辻さんがシャリエさんに話しかける。美影が名前でいいんだよね?


「美影・シャリエですよ。私達、どうやらマザーとやらに記憶を上書きされていたようですね。皮肉なものです……えっと、アナタもカーパスちゃん……じゃないのよね? 」


「はい、私、音辻エリナです! いつの間にか武器の名前を名乗っているなんて、驚きですね! 」


「アムトリス、理由って分かったりする? 」


 俺は、コタツの上にあるミカンを凝視していたアムトリスに疑問を投げかける。

 きっと何かすごい事を考えていたんだろう。俺達とは文字通り次元が違う存在だし?


「今ね、ミカンの白い部分を取ろうか食べようか迷っていたのよ。ここが一番栄養があるのよね。私栄養要らないんだけどね。因みに白い部分はアルベドって言うらしいわよ」


 すごく次元の低い事を考えていた。


「さてと、オムニフラグメント、その武器にも使ってるわよね? エネルギー発生源として 」


「ええ、使用しています。まさかそれが? 」


「オムニフラグメント、コイツは存在するだけで有りとあらゆる可能性を減らし、全てを崩壊へと導いていくシロモノよ。持っていれば命を削り、破滅的な運命を招く。多分その武器が端末になって記憶を操作していたのね。破壊するわよ。そいつをこの宇宙で破壊できるのは、イバライトを使う私達だけ」


「待ってください! それを破壊されては私達の能力が使えなくなります! 」


「残念だけど、それは武器の能力だけでは無いの。あなた達はDNAが変異しているのよ、そこのリベレーターに近い感じで」


「!?」


「?」


 衝撃の事実なのだろう。シャリエさんはショックを受けているようだが、音辻さんはどこ吹く風と言った様子だ。

 余程大物なのか、いや、もしやアホの子なのでは……?


「ご存知ないとはねぇ。嫌味が通じていないとはショックですな。ウォッシュメント、その技術はリベレーターの能力を部分的に再現する為に考案されたものですが、勿論武器だけでは使えませんからねぇ。本人にも少々DNA変異を起こさせたのでしょうなぁ」


「ということで、エネルギー源さえ変更すれば、能力は引き続き使用できるわ。この世界だと、今はちょっと弱くなるけど。そうね、私から器をプレゼントしてあげる。大事に使ってね? さぁ立ちなさい!」


 アムトリスは、立ち上がった音辻さんと隣に座るすわるシャリエさんに蒼い玉を渡す。その玉はどこまでも深く、そして暗い、海の底や宇宙のような神秘さを放っていた。これこそがイバライトだ。


「特別製よ。さて〜、分解&セット! 」


 アムトリスが人差し指をクイッと上にあげると同時に、ウォッシュメント「ストレプトカーパス」と「アングレカム」がこちらへと向かい、そして空中で静止したまま分解する。その中には、何故だか恐ろしさを感じる、ビー玉サイズの漆黒の物質が収められていた。


「み・つ・け・た! 。コイツが犯人ね。道理でなぁんかさっきから調子が出ないと思ったわ。ヒタチ君、アナタならそれに触れただけで破壊できるわ。気を付けて、そいつは多分アナタも取り込もうとしてくるから」


 アムトリスに言われ、黒い物質、オムニフラグメントへと手を伸ばす。触った瞬間、突然様々な映像が頭に流れ込む。惑星の爆発、巨大な宇宙の黒い穴、そして大きな小惑星や彗星、そして思考の全てを覆うような打ち寄せる黒い衝動。


 ――――破壊しろ。

 ――――崩壊させろ。

 ――――全てを虚無へ。


 ――――袋田温泉!

 ――――筑波山!

 ――――那珂湊おさかな市場!


「でやぁぁぁぁぁあああ! 」


 邪悪な思考を振り払い、オムニフラグメントを握り潰す。まさかこんな小物を破壊するだけでここまで苦労するとは。


「やはり人選は正解。よくやったわね。普通なら取り込まれる所よ。意思の強い人間以外はね」


 アムトリスはなぜか指揮者の格好をしつつ、指揮棒を動かしながら空中でウォッシュメントを組み直す。イバライトを組み込んだという事は、神の力を持った武器、つまり神器だよね? 魔剣から聖剣になった的な?


「使ってみなさい、二人とも。色々便利になってるわよ。頭を使えばね」


「さっきのイバライト、何が違うんだ?」


 指揮棒を持ちつつノリノリで作業していたアムトリスに質問する。見かけは同じだったが何が違うんだろうか。


「ああ、彼女達がイメージしやすくする為に、特定の効果を出しやすくしたのよ。音と探知ね」


「なるほど」


「オムニフラグメントを破壊するとね。確かにイレギュラーだ。……ヒタチ君。君は私を信用出来ないだろう? 正直に言いたまえ」


 カシマとダイゴが口喧嘩をし、音辻さんとシャリエさんが武器のテストをする中で、ペイグマリオンが俺に問いかける。そりゃそうだろう。さっきまで戦っていたんだぞ?


「正直、信用出来ん。あんたのあの人形、ダイゴは生命反応があるって言ってた。あれ、人間なんだろう?」


「そうだ。私は人間や無機物を人形化する能力を持つ。そしてそれを保管する亜空間技術もね。しかし、私は、この空間に居るのが原因かはわからないが、いや、そうだな。彼女達を解放しよう。それで良いかね? 」


 ペイグマリオンは何故ここまで俺達に協力しようとするのだろうか。これは罠なのかもしれない。しかし、俺は信じてみようと思う。コイツの目は、先程とは違う。なんだか、目に光があるような気がしたんだ。


「リベレーターと共闘ですか。信用は出来ませんが、戦力は不足しています。使えるものは使わねば。コントローラーズのメンバーも襲ってくるでしょうし」


「先輩方はお強いですからね〜、特にSクラス職員の先輩方は危険です」


「Sクラスと特Sクラスメンバーね、あの人達を敵に回すのは厄介だわ。私も戦闘向きじゃ無いし」


 コントローラーズの二人は賛成のようだ。アムトリスはこちらを向いて頷いている。

 彼女がそういうのなら、そうなのだろう。


「私はヒタチの意見に従いましょう」


 ダイゴは賛成のようだ。カシマは……うわめっちゃ嫌な顔してるぅぅ!?


「逆らったら私が殺しますので」


 めっちゃ警戒してるぅぅぅ!? でもこれで正しいのだ。


『カシマ、監視は任せるぞ』


 カシマに念話を送る。


『ヴェェエ……』


 ――――うん、頑張れ。

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