オムニフラグメント、そして最高の造形師

 音辻エリナ? ストレプトカーパスはコードネームか何かだったのか?


 そうだ、アムトリスなら、アムトリスなら何かわかる筈だ彼女は……凧揚げ? 凧揚げしているのか!? なぜ!? なんかもういいや……うん。


「えっと……音辻さん? んじゃ改めて、俺の名前はミト・ヒタチ。あっちに居る黒いスーツ着てるのがダイゴ。緑色のくノ一っぽい……いや、薄着の女性がカシマ。そして白いワンピースで何故か凧揚げしているのがアムトリスだ」


「ああ! イバラキエリアの人、ミトさんというのですね! よろしくお願いします! ところでなぜ隣でアングレカム先輩が寝ているんです? ええ、あれ? 確か助けに向かって、あれ? なんか記憶があやふやなような? 」


「君は……なるほど、いやこれは傑作ですねぇ。まさかこのような形で……これは、プランを変更せざるを得ませんねぇ」


 ペイグマリオンも目を覚ましたようだ。だがコイツも先程より落ち着いている様子だ。まさか、もう回復したのか? 割と深刻なダメージを負っていたのに。リベレーター、流石進化した人類と言ったところか。


「さぁ、状況を整理しましょう。コタツにでも入ってね? ほら、アングレカムさんも起きたようだし」


 アムトリスが手を招く先には、アングレカムが先程の音辻さんと同じように辺りを見回していた。しかしすぐに立ち直ったのか、フラッとこたつに入り込む。


「あの、アングレカムさん? 覚えてないでしょうが、あなたはその、どうやら精神的なダメージを受けたようで治療していたんです。俺の名前はミト・ヒタチ、どうぞよろしく 」


 アングレカムは状況が理解出来ていないのか頭を捻っている。全員が彼女に目を向けるが、彼女はまるで他人事のように……いや、まさか、まさかな。


「えっ、私ですか? アングレカムは私のパルスガンですが? 私の名前は美影・シャリエと申します」


「えっ!? 」


「えっ? 」


 ストレプトカーパス、じゃなかった、音辻さん、アンタが驚くのか……というかなんでアンタらが驚いてんだ。


 そんな状況下、大きめのコタツに俺、ダイゴ、カシマ、アムトリス、音辻さん、シャリエさん、そして捕縛中のペイグマリオンの全員が入り、俺がこの世界に来た理由、見た物、そして疑問を全員に伝えた。


「神様……ですか? それはいわゆるヘイトラムのような存在ということでしょうか? 」


 シャリエさんが疑問を投げかける。ヘイトラム、聞き込みで聞いた名前だ。


「仲間内では神って名乗る人もいるけどね、まぁ、なんでも出来る存在だと思って。大体の宇宙ではね。ヘイトラムとやらは知らないなぁ」


「なるほど。我々も宇宙の外にいる上位存在については存在しているとは思いましたがね。しかし信用出来ますか? 胡散臭いですねぇ? 」


 いきなり言われれば胡散臭いのは確かだが、ペイグマリオン! それをお前が言うのか!?


「確かに胡散臭いわね……本当かしら……」


 なんでお前が神妙な顔して疑ってんだアムトリス! ここはボケしかいないのか! ツッコミはどこだ!


「失礼、話が纏まりませんね。先に進みましょう。まずは自己紹介といこうではありませんか」


「待ちたまえ。君とそこの彼女はAI搭載型のアンドロイドなのだろう? 私がペラペラ話すとお思いですか? ネイトの罠かもしれないのに。だが、その美しい彼女だけは手元に置いて差し上げましょう。それ以外は何も必要ない」


 カシマが全力でペイグマリオンを睨みつけている。この空間は、精神を癒してストレスを軽減させる最高のリラックス空間ではあるが、どうやら人格は変わらないようだ。ペイグマリオンは相変わらず全力で敵意をぶつけてくるしな。


「カシマがお好みですか。そしてアナタは人形がお好きと。いいでしょう」


 ダイゴがこたつの上に手の平を置き、青い閃光を迸りながらゆっくりとそれを持ち上げていく。そこに現れたものは――――カシマ?


「我々の義体を作り出した最高の造形師、ユークリッド・クロムウェル。彼が作り出した、1/10サイズのカシマです。これを差し上げましょう」


 ペイグマリオンは物凄い形相でカシマフィギュアをガン見し、縛られた体を全力で震わしている。そんなにか。そんなに好きか。


「私の、私の、私が、私がそのようなもので協力するとでも? 甘いですね。私の信念はその程度では曲がらない。そうです、やはりこれはネイトの罠。ハッハッハ、私は確かに人形が好きですが、私には美学があるのです。その美学にそって美しい人間を永遠に保存する。それこそがそれこそが」


 ペイグマリオンが全力で混乱する中、突然ダイゴがカシマフィギュアに向かって投げキッスをし始める。


「愛してます! ペイグマリオン! 」


「しかも、オリジナル音声付きです。」


「…………いいでしょう、交渉成立です。私が知っている事をある程度お話しましょう。クローン製造ラインに対するハッキングはミッションが完了次第解除致します。これで湾岸区域の人間は元通りだ。如何ですかな? 」


 マジかよ。あっさりだなおい。めっちゃ効いてるじゃねぇか古河の力。しかし、コイツが人を殺しまくったのは事実。危険なのは変わらない。


「ダイゴ? 話がありますわ。少し付き合って頂けます? 」


「カシマ、ここは背に腹はかえられないのです。ちょっと待って、ちょっと……」


 カシマが目を見開き、顔を震わせながらゆっくりと立ち上がり、ダイゴを引きずっていく。あっ撃った。連射だ。あぁこれはちょっとヤバいかも……。しかし、アムトリスが指パッチンをした瞬間、無傷でコタツに戻されていた。


「さて、今度こそ状況報告を」


 ダイゴが仕切り直し、話し合いが始まる。


 そこから、いくつか分かった事。


 この地球ではアメリカ合衆国が存在せず、フランスがアメリカ大陸を制覇し、アメリカ合衆国はヌーベルというフランスから独立した国になっているらしい。


 更に、エネルギー源や超常現象を起こす物質、「オムニフラグメント」という物質が存在する事。


 リベレーターの殆どは宇宙でAIのマシン兵器と戦争をしている事。


 立て続けて起きた災害や隕石の落下で日本、いやヤマトが大量の移民を受け入れた事。


 そして驚いた事に、このヨコハマエリア、本来はディストピアでも労働隔離エリアも無く、マザーというのも存在しない、普通の国だった事だ。


 一体いつからこんな恐ろしい場所になったのか。マザーというのは一体何なのだろうか。しかし、答えを知っていそうな人間がここに一人いるわけだ。


「愛してます! ペイグマリオン! 」「ふむ」


「愛してます! ペイグマリオン! 」「ほぉぉ」


 気に入ってるみたいでなにより。うん。横で震えているカシマは犠牲になったんだ。これは仕方が無いことなんだ。


「さて、そのマザーとやらの正体はAI「ネイト」ですね。我々リベレーターの敵。人類を滅ぼす存在だ」


「ネイト? エジプト神話の戦いの神ですか? 」


 カシマがペイグマリオンに質問する。俺はエジプト神話ってのはさっぱりだな。ラーとアヌビスくらいしかわからんぞ。


「はて、エジプト神話というのは存じ上げませんが、戦略AIがそう名乗り出たのです。そして人類に宣戦布告した」


「ハッハ〜ン、多分、そのオムニフラグメントと言うのが例の物質よ。最優先破壊対象ね。因みに本物のネイトちゃんにはあったことないんだよねぇ、名前はたまたまかな? いやぁ、でも偶然なんてのはなぁ」


 なるほど、可能性を潰す破滅的な物質、オムニフラグメントか。そう言えば金髪の子もそう言ってたな。


「まぁともかく、私はそのネイトの計画を叩き潰し、ネイト自体を仕留める為、ついでに出奔したヴェルトメテオールを連れ戻すことが任務です。どうやらや目的は同じようですな。ここは一つ、協力して事に当たるというのはどうでしょう?」


 ペイグマリオンと、協力……?

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