動き出す世界、そしてサモ・〇ン・キ〇ポー
「なんか人数多くない? ていうか、戻るの早くない? 」
古河の能力「古」で作られたこの空間は、精神回復の作用を持つ。その為、アングレカムとやらを連れてくるついでに脱出した訳だが……。
「アムトリス、てっきり戻ったのかと思ってたわ。……宇宙の、なんだっけ? 外に」
アムトリスは何故かゲート前でキックボードを使って疾走していた。一体なぜキックボードなんだ。
「いや、私は帰るっていうか、いつもいるというか、いつでも来られるというか……ヒタチ君、さてはあんまり理解していなかったわね? あれ? なんか調子がおかしいような?」
「あなた達! アングレカム先輩の治療はいつするんですか!?それにそこにいるリベレーター、さっき潰したんじゃなかったんですか! 説明してください! 」
おっといけないそうだった。治療治療……でも、特にやる事無いよね?
ダイゴはアングレカムを木に寄りかからせている。彼女は放っておけば何とかなるとは思うが……なるのか?
「ここはその、勝手に回復するような空間なんだ。だからまず俺達は……待っているだけって事になるかな? ついでに、実はリベレーターはこっそり捕獲したんだ。情報収集しないとね」
「情報収集……?それに、本当に回復するんでしょうね……? まぁ私には何も出来ませんし、お任せするしかありませんが。あっ、そこの方、初めまして。私の名前はストレプトカーパス……ん?……あれ……?」
ストレプトカーパスがアムトリスに挨拶をしたかと思うと、なぜだか混乱した様子を見せる。そりゃこんな訳の分からん爽やか空間に来たんだ。混乱もするだろう。
「初めまして。私はアムトリス。カーパスちゃん。アナタ重度の精神圧迫を受けてたみたいね」
「精神……圧迫……?……アッ」
突然意識を失ったストレプトカーパスを支える。いきなりどうしたって言うんだ? 重度の精神圧迫ってのは何だろうか。
ふと気になり、捕獲したリベレーターを確認する。どうやらこちらも様子がおかしい。先程あれだけ喚いていたにも関わらず、完全に気絶しているようだ。いやおかしいのは元々なんだが。
「コイツら、なんで突然気絶したんだ? 」
「ここは精神を癒す所だからね。カーパスちゃんは集中治療モードに入ったわけだ」
集中治療モードって……。
ん?カーパスちゃんは?
「リベレーターの方も? 」
「そっちは煩いから腹パンして黙らせたわ」
「あっはい」
さて、これからどうしたものか。ダイゴは引き続きアングレカムの様子を見ているし、カシマはキックボードで遊んでいる。相変わらずマイペースだなぁ。楽しそうだしいいか。
「さすがに何も無いのはねぇ。さてと、ちょっとした和室でも作ろうかしら……セイッ! 」
アムトリスが地面を殴ると、そこに突如広めの和室が現れた。畳だ。やはり畳は良い。
アングレカムとストレプトカーパスを備え付けの布団に寝かせ、ついでにペイグマリオンをそこら辺に転がす。
「さてと、部屋も作ったし、質問タイムにしますか。その様子だとさっき大洗を出て直ぐに戦ってたみたいね。感想は? 」
「死ぬかと思った。守のフィールドも広がりずらいし、鉾の効果範囲も狭い。もっと言うと攻撃が当たらないんだ」
そう、攻撃が当たらない。決まれば一撃でも当たらなければ無意味だ。
「なるほどねぇ、ヒタチ君達が時間の概念を理解出来れば、時だって止められるんだけどね」
「え? 俺時間止められるの? マジで?」
「イバライトを使いこなせばね。概念を理解出来れば、あの物質は全てを叶える。ただその、アナタの能力だとちょっと……頑張って! 」
喧しいわ! どうせバカだわちくしょう!
「まぁまぁ、そうね、当てたいならイメージするしかないわ。動きたい動作をイメージするの。そうすれば、アナタの身体が動ける範囲の速度なら、それは叶うわ」
「一応やってはいるんだ、ただどうしても、戦闘中はイマイチ集中出来なくてなぁ」
そもそも、戦闘自体普通起こらないんだ。まさかこんなに戦うことになるなんて。
「つまり、イメージが足りないのね。いいでしょう。特別な先生を呼ぶわ。セイヤァァァアア! 」
アムトリスが俺の頭をわしずかみにする。
一体何が……。
「グァァァァアアア!? 何を…………ピギッ! 」
「アムトリス様!? だんな様に何を! 」
「アムトリス様、それは修行の一環と思ってよろしいのでしょうか」
「あらっ! ダイゴ君、察しが良いのね! そうよ、圧縮時間を使ったの。 あなた達と同じようにね! 」
「「ヒィィィ! 」」
突然意識が遠のき、ふと気が付くと目の前にカンフーみたいな動きをする太ったオッサンがいた。オッサンは俺に向かって挑んでくるが、なんかめちゃくちゃ強いんだな、これが。
戦って、負ける。戦って、負ける。戦って、負ける戦って負ける。戦って、負ける。戦って、負ける…………
一体、何時間、いや、何日経った? 試合を何回したんだ?
戦って、引き分ける。戦って、負ける。戦って、負ける。戦って、引き分ける。戦って、引き分ける、戦って、引き分ける。戦って、負ける。戦ってい、引き分ける。
毎回動きの変わるオッサンが、どんどん増えていく。だが、自分の身体の動かせる範囲が理解出来た。理解出来れば、オッサン達の動きについていける。 理解は出来たが、一体俺はいつからここにいた?
戦って、引き分ける。戦って、勝つ。戦って、勝つ。勝つ。勝つ。――――――――勝つ。
――――――――タチクン……タチ君……ヒタチ君!
「ハイイイィィィヤァァァアアア!!! 」
「うわぁビックリしたぁっ!……おかえりなさい」
俺は突然の声に反応し、即座に構えを取る。しかしアムトリスを見てそれを解いた。凄く久しぶりな気がする。いや、間違いなく久しぶりだ。太ったおっさん以外を見るのは。っていうか俺は何を、いや、どれだけ向こうにいた?
「ヒタチ、分かります。私も一年間向こう側にいましたから」
「だんな様、ゆっくり休んで良いのですよ。ここは心が鎮まりますから」
どうやら俺は泣いているようだ。泣きすぎて涙は枯れたと思っていたが、カシマの言う通りだ。ここにいれば、どうやら回復するようだ。
「ヒタチ君、アナタは7年間向こうで戦っていたのよ。私の作り出した圧縮時間の中でね。実際は5分くらいよ」
「まさか7年も……? よく発狂しなかったな俺」
「ここならそれが出来るのよ、ここじゃなかったら圧縮時間を使った瞬間、アナタは廃人になる」
だからここで修行していたのか。合点がついたが、なぜ太ったおっさん相手だったんだろうか。
「因みに、ヒタチはどのような修行を? 」
「私が作り出した、あらゆる戦いを想定したスーパーサモ・〇ン・キ〇ポー先生を一年ごとに一人づつ増やして、ひたすら実戦を積ませたのよ。習うより慣れろってやつよ」
「なぜ、なぜサモ・〇ン・キ〇ポーなんだ! 別に美人のお姉さんだって良いじゃないか! なぜだァァァァァァ!!! 」
「私、サモ・〇ン・キ〇ポー先生のファンなのよ。セクシーよね? 」
「だんな様、おいたわしや……」
「お取り込み中の所失礼致しますが、ゲストが目覚めたようです」
ダイゴが指をさした先、そこには先程まで眠っていたストレプトカーパスがゆっくりと起き上がり、辺りを見回していた。
「ストレプトカーパスさん、おはようございます。……その、大丈夫ですか?いきなり倒れたし」
俺は恐る恐るストレプトカーパスに話しかける。なんかすごく久しぶりに見た気がする。しかし、以前の記憶が正しければ、戦闘行為と見なされたら即座に攻撃してきそうだ。
「ストレプトカーパス? あの子がストレプトカーパスですが? 」
ストレプトカーパスは、アムトリスが作り出した和風なソードラックに掛けてある、自身の剣を指さしている。
「え? 君がストレプトカーパスでしょう? 自分でも言ってたし」
そう、確かに名乗っていたはずだ。
「えっと、カーパスは私の相棒の名前です。私の名前は「音辻エリナ」と申します、えっと、あなたの名前、何でしたっけ? 」
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