死闘、それは踊るように

戦闘服を装備し、周りの様子を伺う。周りは死体だらけ、そしてどう見ても怪しいヤツが一人、さらに怪しげな無機質な人型が多数。


 そして、目の前で混乱しながらキョロキョロしている音使いと、同じ様な服を着てる美人が二人に、美人に倒れている三人。


(あっ……戦闘中だこれ……)


「あの、ありがとうございます」


「そりゃ、どういたしまして」


 彼女は起き上がり、すぐさま戦闘態勢を整える。後ろを見てみると、杭が剥き出しになっている。俺がいなければ死んでたんじゃないかこれ……? 本当に良かった、痛いけどな! とりあえず、ご挨拶といこうじゃないの。


「えー、皆さんおはようございます。パラレルワールドから来ました、ミト・ヒタチと、友人のダイゴとカシマです」


「パラレルワールド? やはりあの反応は……うむ、面倒ですねぇ……。だが礼には礼を。私、ペイグマリオンと申します。以後お見知りおきを……まぁ、次があるとは思えませんがね? 」


 まるでどこぞの貴族のような気取ったポーズだ。この状況でこのセリフ……礼儀正しいが、怪しい。


『ヒタチ、現在私とカシマは人間擬態モードに移行しています。眼前の男性から特殊生命反応を感知。周囲に重傷者一名、意識不明者三名。多数の人型からは生命反応を感知』


「この死体の山は……貴方が? ペイグマリオンさん」


「ええそうですよ。このヨコハマを救う為にね……? ところで貴方のお友達、なぜだか、とても素敵ですねぇ、どこかで会いましたかねぇ?」


 ペイグマリオンは舐め回すようにカシマを覗いている。コイツ、変態だ!


「ちょっとアンタ、いきなり現れて! 分かっているの? 戦闘妨害は記憶削除処分になるのよ? 危険だから下がってなさい!」


「先輩方、ここはリベレーターを優先すべきです。この人はなんだか大丈夫そうです」


「そうもいかないでしょ!こんな怪しいヤツ!」


 黒く光る弓を構えた彼女が、敵意剥き出しでこちらに吠えている。怪しいとは何事だ! 俺だってきたくてここに来たんじゃないやい!


 しかし、いきなり現れた俺に驚いているのか、俺達以外の全員が距離を保って睨み合っている。不味い。このままでは三つ巴になりかねない。


「アネモネ、ストレプトカーパス。本部との連絡が取れた。マザーからの任務。リベレーターは抹殺。不法侵入者と見られる人間は拘束よ」


 燃える剣を持った金髪の女性がなにやら物騒な事を口走っている。不法侵入者って俺だよな?


「「了解」」


 了解じゃねぇよ!三つ巴決定じゃねぇか!やるしかないな!


「おや? 再開ですか? またまた面倒な。よろしい、纏めて殺しなさい。彼女以外は」


「ヒィ」


 カシマのそんな声初めて聞いたぞおい。まぁそれはさておき、戦闘開始だ!


 人形のような生命体は、まるで踊るように動縦横無尽に駆け回る。ダイゴとカシマは武装を展開し、人形たちに応戦する。


 おっと、こっちにも来た!


「行くぞ!鉾田の力!」


 腕に鉾の字が浮かび、手の中に天沼矛もどきが現れる。猛スピードで突撃してくる人形を鉾で突き迎撃するが、紙一重で避けられる。


(生命反応って……どう見ても人形じゃねぇか!)


「速い!」


 人形は素早い動きで、鉾を突いて隙を晒している俺の真横に取り付き、鋭い貫手を放ってくる。


「チイィィ! 守谷! 」


 緑色のフィールドが展開し、人形の攻撃を弾き、反動で仰け反っている所を鉾で薙ぎ払う。


「一発当たればこっちのもんだ! 変換! 」


 どう見ても無機物だが、その人形は生命反応があるらしい。もしかして人工生命の類いかもしれない。人形の手足部分だけを接合し、行動不能にする。


 真横から来る熱線とソニックレーザーをフィールドで弾きつつ、弓使いに襲いかかる人形に刃をぶち当てる。先程と同じように人形を接合し、動きを止める。


「……どういたしまして」


「お安い御用!」


 ――――身体が軽い。これもアムトリスの修行の成果か!


《どういたしまして〜》


 何か聞こえた気がするが、気の所為だろう!


《ダイゴ! そっちはどうだ!》


 ダイゴに念話を飛ばし、状況を確認する。

 先程の重傷者も気がかりだ。


《戦闘中、コントローラーズは、各自、何らかの能力を備えている模様。確認できるのは先日戦闘した「音使い」更に異常な熱と風力を感知。空気操作、あるいは熱操作能力者がいると推測》


 他の人形を相手にしつつ、ダイゴからの報告を聴く。あの弓の人、サイコキネシスに見えたが、どうやら風使いらしい。空気を固めて敵を固定……なるほど、そういう使い方をするのか!しかしどうやら、ペイグマリオン相手には拘束力が弱いようだ。


 鉾で地面を液状化させ、人形二体を纏めて落とし、そのまま足場を固定して放置する。


「数が多すぎる! リベレーターを優先して叩きます! 」


「「ターゲット了解」」


 アネモネと呼ばれていた女性が声を上げ、俺がターゲットから外された。助かった、乱戦なんてやってられないぞ。


《ダイゴ、カシマ、今「明野」と「取手」を開いた。隙を見て重傷者をぶち込め》


《了解》


 先程出てきたばかりの場所に、どさくさに紛れて手を切断された女性と、気絶している二人を放り投げる。これで勝手に回復するだろう。切断は知らんが。


「よそ見は良くないですねぇ」


 ペイグマリオンの紅い閃光を纏ったパンチが、俺の通常防御フィールドにぶち当たり、威力を殺しきれずに数メートル吹っ飛ばされる。


「チィィ!守谷の力が間に合わない!」


 コイツの能力が掴みきれん! どうしたものか……!

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