太陽の女神と大人の訓練。神の鉾、そしてスペース牛久大仏

 ――――まさか、神様直々の戦闘訓練とはね。


 気が付けば、先程までいた草原は無機質な白い広場へと変化していた。アムトリスは高台へヒラヒラと舞い上がり、こちらを見下ろしている。


「ダイゴ君とカシマちゃんは専用の訓練場へ転移させておいたわ。オマケ付きでね」


「カシマはともかく、ダイゴって戦闘出来るのかな……?」


「そこは任せておいて!バッチリよ!!」


 頑張れダイゴ……


「さてと、外の世界で使われているエネルギー源だけど、あの物質は多分、イバライトとは全く逆の存在よ。つまりイバライトを普通に使ったんじゃ効果は打ち消されるわ。あれは可能性の力をごっそり削ぐ。対抗するにはその上をいかなくちゃね」


「打ち消される? そう言えばサイコ美人さんがフェイズライフルをかき消してたわ」


「サイコ美人ってすごい言葉ね……でも初体験は済ませてたのね。歯痒いわ、外の世界をほとんど認識出来ないなんて。さて、君はどこまで力を引き出せたのかな?」


 意外と距離が離れているのにも関わらず、声がハッキリと聴こえる。何だかチョイチョイとイヤらしい言い方をしているのような……気のせいかな?ま、そういうものなのだろうと納得するしかない。


「防御の守、テリノワクスさんを呼んだ時の栖、壁抜けの壁、ここを開けた『古』とか」


「あら、意外と使いこなしているのね?その調子ね。さて、ここからは集中して、土地の概念を引き出すの。出来るわね?」


「ウィッス!」


「構えなさい!まずは防御から!」


「ぼっ、防御!」


 体内のイバライトから「守谷」の力を引き出す。核ミサイルですら消し去った防御力、何としてでも使いこなさなければ。


「踏ん張りなさい!」


 アムトリスの周囲に高速回転している鏡の一枚がこちらを向き、閃光が走る。その瞬間、俺の周囲が緑色に光り輝いた。アムトリスの放つ光線がぶち当たったのだ。


「うぁぁぁあああ!何だこのビーム!」


 守谷の力によって防ぎ切ったが、逸れた光線の一部がシールドから外れて後方に閃光が走る。その直後に振り向いた先、遥か遠くにそびえ立っていた山が3つほど消滅した。


「やるわね!」


「あの……あの……」


 ――――脚の震えが止まらない。ストレプトカーパスとの実戦だって実は超怖かったのに。


 これは、あの戦いとは比べ物にならない。あんなとんでもない攻撃を防いだなんて……アムトリスめ、練習でとんでもないもんを撃ちやがった!


「そのシールド、概念防御なのね?多分アナタの世界でも、その効果を存分に発揮できたでしょうね」


「俺の世界なら?」


「そう、ここと同じように、アナタの世界は可能性が溢れている」


「外にある世界は?」


「あの物質が数多くある限り、そこまでの防御力は出せないでしょうね。可能性を広げて行く度にイバライトの威力は上がっていくから。特にこの惑星には物凄い量の物質があるし」


 ――――レベルアップみたいだな。というかレベル制限? しかしなんでまた地球に……?


「さてと、これで防御は心配ないわね?次は武器!攻撃を念じなさい。それに対応する能力が出るはず」


「よし!武器、武器! 」


 頭に突然浮かび上がるのは、鉾田の文字。


「ほ、鉾………鉾田?」


 手の甲が光り輝き、そこに『鉾』の字が浮かんだ瞬間、先端に鋭い両刃が付いた長い柄が手に握られていた。


「あら?その鉾、父さんと母さんの槍にそっくりね。あれ便利なのよね~、サイサノスのやつ、コピってたのね」


「それは……なんだっけ?国作りの奴?あめの……ホコ?」


「あなた達からは、天沼矛あめのぬぼこと呼ばれているわね。その鉾はちょっとだけ違うようだけど」


 鉾を振り回してみる。


「なんだろうこの感じ、すげぇバランスが良い」


 鉾が地面に吸い込まれるかのように、すんなりと突き刺さ……止まらないぞ!?


「その鉾、やっぱりアレにそっくりね。その鉾の能力は変換。物質を作り替える能力ね。足下を見なさい」


「足下?」


 アムトリスが言った通り、鉾に抉られた足下を見ると、そこにあったのは――――


「うちわね」


「うちわ、確かに動いて暑いとは思ったけど、地面が抉れてうちわに……なぜ……」


 ――――っていうか、クーラーとかじゃないのね。


「変換はある程度想像力を働かせれば出来るけど、戦闘中は難しいんじゃないかしら?イバライトは外の世界じゃ能力が大分制限されるから」


「凄いけど……俺頭悪いからなぁ」

「それは……うん……」


 否定せんのかい!


「さぁて!かかってきなさい!」

「本当だけど!本当だけど!」


 本当だけど!


 開幕早々、アムトリスに突撃をかける。


「鉾なんて使った事ないんだぞ!イヤァァァアア!」


 取り敢えず当てれば何とかなる!いや。当てて大丈夫なのか!? 手始めにまず、鉾を大振りで薙ぎ払う。


「舌を噛むわよ!集中しなさい!ソイッッ!」


 薙ぎ払いを避けたと思いきや、突如アムトリスが眼前から『消えた』


「なっ!? イッッッ!?」


 俺の横っ腹に鏡がぶち当たり、身体が吹っ飛ばされつつ空中に浮かび上がる。


「遅っそい!当たらないと意味がないでしょ!」


「うぉおおおおお!やばい落ちる落ちる!」


 思ったより高い!? 落ちたらヤババババハ!!


「あら~た~まや~」


 このままじゃ地面に叩きつけられ……そうか、クッションだ! 鉾を地面に向け突き立てればっ!!


 鉾を地面に突き刺し、地面が柔らかいクッションへと変換されて行く。


 ーーーーこれでっ!うわっ!?


 何かにキャッチされるかのように空中で制止する。アムトリスの鏡だ。気分はプライズ景品だ。


「あっちゃ~危なかったわね。ほら、見て見なさい」


 下をみてみれば、とてつもなくショボイクッションがポツンと一つ。あそこに突っ込んでたら、確実に粉砕されてたわ。


「うわぁ……ヤバかった、ありがとうございます……」


 なんて安物なんだ……ショボイ……。


「想像力の強さね。必要なレベルが出るとは限らない。気をつけなさいな」


 これはイメージトレーニングが重要そうだ。どうやら俺の想像力はしょぼい安物レベルらしい。


「この世界にいるハイヒューマンのリベレーター達やコントーラーズの人達は、文字通り人間離れしているわ。どんなに凄い武器でも、当てられなければ無意味ね」


「さて、他には何があるかな?」


 武器、武器、武器……わからん、でも牛久大仏ってなんか強そうだよなぁ――――あっ光った。


「牛」……やっぱ牛久?


 ゴォォォオォオオオオオオーーーーーン!

 ゴォォォオォオオオオオオーーーーーン!


 真下で打ち上げ花火を見た時のようなとてつもない重低音が、空気を伝っていく。


 鐘の音か?あれ?何も無いぞ、これだけか?

 ん?周りが暗くなって――――?


「上!上!防ぎなさい!!」


「上?」


 頭上を見上げると、真上にとてつもない大きさの影が見えた。これは――――脚? えっ?落ちてないこれ?近くなってない!?


 真下から見ても巨大であろうその影が、辺り一面に広がっていく。膨大な質量が落下しているのだ。


「うわぁぁあああ!!!ぼっ!防御!!」


 その瞬間、地面が爆発したような轟音が鳴り響いた後、目の前には100メートルはあろうかという巨大な影がそびえ立っていた。


「良かった、大丈夫そうね!なにこれ?大仏様!?拝まないと!なむなむ〜」


 ――――神様が仏様を拝むのか!


「うーんしかしこれ、上から落とす質量攻撃なのかしら?近くにいたらやばそうね」


「何だこれ!?牛久大仏?」


 頭上に出現し、地面を爆砕しつつ着地したそれは「牛久大仏」そのものだった。


「とんでもないもの呼び出したわね……可能性って凄いわ」


「いや使い所があるような、ないような……ん?」


 牛久大仏っぽいのが首を振っている?

 ていうか動いてる!?


「その大仏様……ヒタチ君と同じ動きしてるわね」


 牛久大仏、本名、牛久阿弥陀大佛は台座を含めば全高120メートル、立像本体は100メートルもある、世界最大のブロンズ立像である。


 阿見のアウトレットから見るとかめはめ波撃ってるように見えるんだよなぁ。って!ブロンズ像が動くわけねぇだろ!!


「これ、君の思う通り銅じゃないわね。バルトナイトで出来てるわ」


「バルトナイト?」


「そう、伸縮合金バルトナイト。ヒタチ君の宇宙で三番目に硬い物質」


「何でそんなので出来てるんだ……」


「アナタ達がいつか、どこかでバルトナイトを使って大仏様を作ったのねぇ。可能性があった中で武器になるものが呼ばれたのね。元ネタ後で見に行こっと」


「そんな凄いもん使って牛久大仏再現したのか……なんでわざわざ」


「バルトナイトの特性は衝撃吸収性の高さと質量操作、伸縮ね。ヒタチ君の宇宙の物理法則とは違う動きをする虚数結晶体。まぁ実際はすぐ隣の宇宙の物質なのよ」


「これ、どの程度動くんだろうか」


「なら、試してみましょうか!」


「ウィッス!行きます!」


 大仏の腕が、俺の腕と同期して連続で振り下ろされる。これ、大仏はそれっぽく動くけど、同じ動きをしている俺は屈んでジタバタ床を叩いているようにしか見えないんじゃかいか?


 アムトリスは身体に見合わないような速度で飛び上がり、そして軽やかにステップしつつ大仏の攻撃を避けている。


「よっ!ほっ!おおっ?速い速い!せいっ!出力低めのアムトリスビィィィィィム!!」


 アムトリスは展開している鏡から光線を出すが、あれアムトリスビームっていうのか……。


 大仏の肩口にビームが直撃、大仏が仰け反るが、直ぐに姿勢を直して戦闘体勢をとる。凄い防御力だ……もしかして、守谷の力と同じなのか?


 大仏は肩元をドスンドスンと手で払った後、俺の動きとまた同期する。あれ?肩叩いた?俺そんな動きしてないぞ?


 しかし、意味はさっぱりわからんが凄いことは分かる。それにしてもなぜ牛久大仏を……? まるで戦隊物の巨大ロボットみたいだが、使い所はあるかと言われれば……謎だ。


「うおっ!?」


 そう思った矢先、突如巨大な大仏様が俺と同じ位のサイズに縮小した。わぉ、スモー〇ライトみたい。


「あら可愛い。やっぱり縮むのね。縮むって言葉好きよ?ちょっとエッチで」


 大仏様は縮んだとはいえ、やはり俺と同じ動き動きをしている。おお、やはり速い 速い!


「やはりタイムラグなしで動かせるのね!さて、次行きましょう!次!なんだか楽しくなってきたわ!」


「では、失礼しますね。今後ともよろしくお願いします」


 ――――――――!?


 牛久大仏の様な物は光の粒子に包まれて消えていったが……。


「今、喋った?」

「喋ったわね」


 大仏が、喋った?ロボットか何かだのかなぁ……?


「ふぅぅ」


 身体から力が抜け、後ろに倒れ込む。さすがに疲れた。もう限界だ。


「うん……なんか疲れたわね。そろそろ切り上げましょうか」


 アムトリスは片手で髪をかき上げながら、笑顔で俺に手を差し伸べてくれる。


 日光と重なった彼女は、まるで太陽の女神の様だった。


「――――――ウィッス」

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