音響少女とガチ戦闘2

「そんな! 通らないっ!?」


 防御フィールドから、ストレプトカーパスは素早く剣を引き抜き、超音波レーザーを連射しながら俺から距離を取る。


 《だんな様、正体不明の防御フィールドを感知。引き続きよろしくお願いしますわ》


 どうやら、お相手は先程の俺と同じ様に距離をとり、遠距離戦に持ち込むようだ。しかし、そのレーザーも、防御フィールドへと吸い込まれていく。


「出来たけど、あの時とは違うよな……?」


 そう、この能力は核ミサイルを樹に変えた時とは違う。だがイバライトで作ったエネルギーフィールドより凄いっぽい。


「まさかそんなものを隠し持っていたなんて……!リベレーターズはヨコハマ以外も封鎖しているはず! アナタ一体どこから侵入を? リベレーターズの一員なのですか!?」


 リベレーターズ、あのスク水野郎の仲間だと思われてるのか……?ないわ! ないない!


「ない! あんな変態の仲間じゃない! さっき言った通り、俺は別の地球から来たんだ! 俺も何が何だかさっぱりんだ」


《ヒタチ。ネゴシエーションです、こちらで主導権を握りましょう》


《ま、任せておけ》


 いいかい? まずは俺が武器を置く。そっちも一旦置いてくれないか?落ち着こう、ほら、少し話をしようじゃないか」


 俺の交渉術を見るが良い! このまま戦っても無意味だし? 下手をすれば住民全員を敵に回すし、敵の増援が来るかもしれないし?


「別の地球? 錯乱した皆は似たような事を言っています。魔界だとか地下だとか。貴方にも治療が必要なんです、武装を完全解除し、私と来てください」


 いきなり言われたらそりゃなぁ、こうなるのもわからんでもない。俺だってイカれてると思うだろうし?


 《ヒタチ、彼女はあなたを精神病患者だと認識しているようです。着いて行った場合、武装解除されるのは確定的です。この世界で、我々が離れるのは非常に好ましくないですね》


 《明らかにやばい団体だぞ? 初めから着いていく選択肢は無い。何とかして、説得するか逃げおおせるぞ》


 《出来ますか?》


 《シールドだけでも出せたし、何とかするさ》


 《Y、ヒタチの能力は通常のイバライトとは異なります。お任せします》


 ダイゴは親友だ。いつだって俺を信頼してくれている……多分。


「聞いていますか? 繰り返します。武装を解除し、投降してください」


「君に着いて行った場合、俺はどうなるんだ? 」


「まず武装解除の上、身体、精神状態をフルスキャンします。その後各種手続きの末、脳に直接尋問を行います」


 コイツら、警察機構なのか……?

 意外と普通じゃないか。


 てっきりもっとヤバい感じなのかと……。


 いや待て、今変な単語聴こえなかったか?

 脳に尋問だって?


「その……脳に尋問とは? 」


「はい! あなたの記憶を取り出し、確認作業を行います。大丈夫、ちょっと脳に尋問用端末を埋めるだけです。その後、記憶を消去、上書きして市民登録を行います」


 ヒィィィイイイイイ!この人なんで嬉しそうに怖い事言ってんの!?


 死体食う奴はいるはサイコ美人がいるわなんなんだこの世界!?


「ま、待ってくれ! おかしいだろ! 人の脳を勝手に弄るなんて!」


「おかしい? なぜです? 治安維持と精神治療には有効な手段ですよ?」


「君もあるだろ? 忘れたくない記憶とか、親との思い出とか、友達と遊んだ事とかさ。消されたら俺自身が死んじまう!」


「忘れたくない思い出? 親との思い出ですか? 親? お父さんとお母さん? 」


 なんだ? 今まで疑問に思わなかったのか?

 しかしチャンスは今だ、質問攻めといこうじゃなないか!


「君はどこの出身なんだい? 僕は茨城産まれさ。この世界にあるかは知らんけどね」


「イバラキ? イバラキエリアから来たのですか? 私、私の出身? 私の出身はカナガワです。このエリアの……あれ? ここ? 」


 《ダイゴ、さっきから彼女の様子がおかしい、何かわかるか?》


 《不明ですが、精神パラメータを見る限り、明らかに混乱を来たしています。この世界の処置方法から推測、彼女も何らかの記憶処置を受けているのではないでしょうか》


 洗脳する側が洗脳されてるってのか?

 なんじゃそりゃ? やっぱカルト集団なのか?


「君、子供の頃の記憶はあるのかい?」


「子供の頃?何故そんな事を?

 子供の頃は勿論……あれ?」


 《だんな様、今です、離脱しましょう》


 彼女、顔を真っ青にして震えてる。

 悪いがこの隙に逃げさせて頂こう。


「私、私は、私はストレプトカーパス、ストレプトカーパスです! 」


 やっべ!持ち直しやがった!


「あなた、私に何をしたんですか!? 私、私は、つ、次は捕まえます! 」


 え?


 ストレプトカーパスは目を泳がせつつ、駆け出すように撤退して行った。棚ぼただが、味方を呼ばれたら面倒だ。さっさとここを離れよう。


「助かった……よな?」

「逃げましたね。こちらも離脱しましょう」

「武装解除します。ステルスモード移行。お疲れ様です、だんな様」


 俺の戦闘スーツが分解され、元の青いジャケットが再構築されていく。


 普段着にしているジャケットも戦闘用程ではないが、ある程度の機能は使用できる。


 中でもステルスモードには超便利だ。

 俺たちの世界の各種センサーに引っかからない程度のステルス性は持っている。この世界でどれだけ役に立つかはわからんが。


 《なぁダイゴ、ステルスモードが役に立つと思うか?》


 《物理の法則が同じならば問題はないかと》

 《使う物は同じってか。なるほどね。どちらにしろ用心していこうじゃないの》


 状況は脱したが、全く安心できない。

 彼女の能力がこの世界のスタンダードだとすれば、非常に厄介だ。


 イバライトによる能力を使いこなさなけれは、今からどうなるかは、全く予測がつかない。


 ◇◇◇


 ヨコスカ、コントローラーズ中央指令本部


 コントローラーズを総括する施設であり、国の機能が崩壊した今は役所のような役割ももった施設である。


 ストレプトカーパスは暗い面持ちで帰還する。


 侵入者にされた疑問に対する答え。疑問に答えようにも、友人、両親、子供時代、全てが思い出せないからだ。


 記憶削除プロセスをどこかで受けていたのか、はてまた敵の攻撃によって思い出せないのか。彼女の中には疑問が渦巻いていた。


 見回りの途中に遭遇したヴェルトメテオールと正体不明の侵入者との戦闘。


 彼女はヴェルトメテオールとの戦闘を報告したが、謎の侵入者への報告はしていなかった。

 何故かは自分でも分からなかったのだが。


「よっ!カーパス!お疲れ!」


 彼女に声をかけるのは、Cクラス職員のデンドロビウムだ。


「先輩、お疲れ様です……」


「顔色悪いなぁ!そりゃあの変態に遭遇したらそうなるわ」


「ヴェルトメテオール、彼を捕まえるのは不可能では?噂では、壁は抜けるわ徒歩で宇宙まで行けるとか」


「手がつけられん。Sクラスでも勝てないって話だぜ? まぁ別に悪さはしないしな。なんか拉致った人普通に返すんでしょ?何が目的何だろうね?」


「あの速さはどうしようもないです。目で追うのにも必死でした」


「マジか、目で終えるだけすげぇよ……」


「ほら!やるよ!」


 デンドロビウムは、カーパスに栄養パックを手渡す。しかし、中身は……。


「ありがとうございま……う、梅紫蘇マンゴーですか……?」


「あっちゃー! ハズレだったかな! まぁ『ランダム』だからな!」

「あら、意外と美味しいかも」

「マジかよ」

「あっ! 」

「ん?どうした? 」

「い、いえ。なんでもないんです! 」


「今日、褒められたんです、美人だって」

「マジかよ!そりゃお前さんは美人さんだもんなぁ〜ほれほれぇ!」

「茶化さないで下さいよ先輩!」


「まさか、ヴェルトメテオールに言われたらんじゃないよな?」


「うぇぇえ!? 違いますよ!あの人は……あっ」


「なんだよぉ!気になるじゃんか!」


「私、名前聞きそびれちゃいました……」


「ドジだなぁ!まぁいいや!しっかり休めよ新人!」


 カーパスは礼を言いつつ別れる。デンドロビウムには、次の任務があるのだ。


 カーパスは思う。彼は一体何を知っているんだろうか。そして、あの装備は何なのだろうかと。


 彼女が調べたところ、彼の存在は街のレーダーやカメラでは感知出来ていない。何故だかわからないが、彼を捕まえてはならないと、本能が訴えかけている。


 彼女は漠然とした疑問を持ちつつ、本部から直通で繋がっているマンションへと帰って行った。

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