やっぱ茨城だわ
あれからかれこれ三時間、ステルスモードを発動しつつ街を散策しているが、ダイゴ曰く、ここはそこいらにカメラやセンサーでガチガチに監視されているみたいだ。まぁ見た感じはこの世界の技術じゃ俺たちを見つけるのは不可能だとか。
「なぁお二人さんや、ちょい思ったんだけどさ」
「なんでしょう?」「はい?」
「今まで勝手に出たヤツあったじゃん……? あの超能力っていうかなんというか。なんかあれ、漢字出てたよな? 」
「Y、現在、イバライトが体内に入り込んだ際発動したとされる時、そして戦闘時に発動した際の『守』、ワープ艦イナの「栖」、そして壁を通り抜けた際の「壁」この3種類が確認されています」
「だよなぁ〜、なんかさ、その文字、心当たり無い? なんか見覚えあるんだよ、こうしっくり来ないというか、分かるようなわからんような 」
イバライトは原理を理解すれば能力が発動する。空を飛ぼうと思えば、揚力や重力を作り出せるし、物質の構造や原理が分かっていれば納豆だろうが寿司だろうがその場で作り出せる。リソースが無限の超パワー。
しかし、そもそも分子レベルで物を理解してる人間なんているわけが無い。いたとして、戦闘中に瞬時に思考ができる奴なんて確実にいない。つまり意外と不便なのだ。ま、その為の人工知能、AIの登場だ。
しかしなんの因果か、AIはいまいちAIはイバライトの使い方が下手というか、不思議な事に同じものを作ると、何故か人間の方が上手い。まぁ戦闘があるなら必須だよね、AIの人材は。
そもそも俺だって、凄い高さのジャンプと着地やちょっとした滑空なら出来ても、俺一人だと高速起動とか出来んし。そもそもビビって動けんし。
そんなイバライトだが、俺の身体に入り込んだ奴は少々特殊らしい。他の人よりも効率的に物を作れるし、時々、光と文字と共に、信じられない威力の能力が出る。
浮かんだのは、守、栖、壁の文字。
「守は守る。栖はねぐら。壁はそのままの意味ですね」
「守る……栖……壁……う〜んダイゴ! 共通項をアーカイブ検索」
「該当あり、茨城、守谷、神栖、真壁。茨城県の地名です」
「そう、そうだよ! 地名だ!」
そう、地名。
俺の故郷、みんな大好き茨城県の地名だ。
みんな大好き。いいね?
昔は人気なかったらしいが今は引っ張りだこだぜ?
資源目的だけど。
「だんな様、イバライトは茨城県で発見された為にその名が付けられましたが、能力と地名が一致するというのは些か無理がありません? 」
「だよなぁ、まぁ色々試すしか無いわな〜、どれ、いっちょ実験といきますかい?」
「実験するにしてもここじゃ目立ちますわ。どこか人に見つかりずらい場所でないと」
今いる場所は元の世界で言う所の桜木町辺りなんだけど、どうやら根本的に俺らの世界とは違うっぽいな。駅も知ってるビルもない。
駅前で待ち合わせする時、風力ソーラー照明灯の風車をずーっと観るの好きだったんだよなぁ……。
「地理どころか状況すらわからんしなぁ。よっしゃ!聴き込みだ!」
はい、という事で、ここからは一時間たっぷり聞きこみ作業になりますね。
カシマは大賛成。曰く、情報は戦いの基本だそうだ。さてさて、聞き込みをした結果……
ケース1
「あの、すみません」
「ハイハイ、なんでしょう」
「実は、今調べ物をしていまして……」
「調べ物?端末を使用しては?」
「そ、そうですね!実は端末を使わないで調べているんですよ! 」
「端末を使わずにですか、珍しいですね」
「そうなんですよ、あぁ、ところで、あまりお店が見えませんが」
「店? 必要ないでしょう? 」
「というと?」
「必要なものは家で作りだせますし……」
「作り出せる?」
「オムニケーターがあるでしょう?」
「そ、そうですよね! でもたまに、外で食べたくなりません? レストランとか行ったり?」
「え? 」
「え? 」
「レストランって……なんです?」
ケース2
「あ、どうも〜! 実は今、職業アンケートを取っていまして……」
「職業ですか?腕章にあるでしょう?あなたは管理部門の方ですよね? 見ての通り、私は整備部門ですよ?」
無機質な街中で歩いているのは、色は違えど似たような服装をした人々だ。目立たないように服装をコピーしておいて正解だった……俺の普段着は万能お着替え機能があるのだよ!
「え、ええそうなんですよ!」
「しかしアンケートというのは……? 管理部門なら端末使用許可はAクラスでしょう?」
「端末許可?」
「え?」
「え?」
ケース3
「この近くに売地はありませんか?」
「売地?」
「そうです! 実は新しい家を建てようかと思いまして! いやぁ空いてる所はないかなぁと」
「え?」
「え?」
「えっと、住居は支給されていますよね? 」
「し、支給!? そ、そうですね! 」
「その……お疲れでしたら、お近くの分離施設に……」
「あ、ありがとうございます! 大丈夫、失礼します! 」
こんな感じだ
端末使うにもID無いしなぁ……
それにしても、隠れる場所も宿すらもないとは……!
「どうしたもんかなぁ、隠れる場所もないなんて、もう疲れたぜ……」
「有機体は苦労しますね。ハッハッハ、その点我々は疲れ知らずですよ?」
「お前ら今ブレスレットじゃねぇか!」
「移動まで楽チンですわ」
「ハッハーン、どうやらここに置いていかれたいみたいだなぁパッセンジャー? っていうかお前ら身体作れよ!義体つくれるでしょうが!」
「ももも申し訳ありません……、イバライトは自前で作りませんの……造形義体も同じですね……」
「ひ、ヒタチ、申し訳ありません、こ、交渉しましょう……」
「よかろう、許す」
「「ハハァ〜」」
はい、いつものお遊び終了。
さてさて、聞き込みを繰り返した結果、色々な情報がわかってきたぞ。まず俺達の世界と根本的に違うのは、この世界には神社とお寺が無い。神道と仏教が存在しないのだ。
では宗教は無かったかと言うと、古代エジプト時代まではその概念はあったそうだ。最近はヘイトラムという神が信仰されていたそうだが、もうほとんど忘れられた存在らしい。
次に、学校自体がなく、端末に接続して必要な時に必要な知識を得ている。基礎教育は脳に直接インプットするらしい。コワイ!
貨幣は無く、商業もない。
必要なものは申請して合成される。
用意された家に住み、用意された食事、そして用意された職業と家族。
わお! バリバリの管理社会、これ映画のディストピアだ!
壁の外は下層のスラム
壁の内側はディストピアときたか。
異世界転移ってこういうもんだっけ? 前に見たアニメじゃ剣と魔法の世界じゃなかったか? 現実は非情すぎない? ここ空気すら汚いよ?
「はぁぁぁ、一旦壁の向こう側……スラムに隠れるか? ここで休めるとも思えんし」
ビルの裏手でコソコソしつつ、三人で小会議だ。別にカメラにも映らんし、通行人は声をかけなきゃ話すらしないから良いんだけどね? こう、雰囲気とかあるじゃん?
「休憩施設の確保は急務ですね」
「転移から戦闘、監視を避けつつ聞きこみですもの。頑張りましたねだんな様、えらいえらい」
「この声が、俺達をダメにする。もっと褒めて……」
あぁ、体力の限界が来ている。
さっさ故郷に帰ってヤンキーピラフ食べたいなぁ。ひたちなかにある山茶郷って店でね?フライパン
ピリ辛なピラフがドーンと乗ってて、こう……。
「……さま、んな様、だんな様ぁぁああ! 」
「はい元気です! まだ大丈夫でふっ! 痛てぇ舌噛んだ……」
痛ぇ! こりゃ後でで口内炎になりそう……。
正直言って、マジで体力と気力の限界が来ているのだ。何としてでも宿、いや潜伏先を探さなければ。
「まさか、初っ端で隠れ家で困ると……うおっ!? 」
手が輝き出し、毎度お馴染みの事く手には「古」の文字が浮かぶ
「さすがにもう慣れたけど、これ目立つんだよなぁ」
目の前に突然、空間を切り裂くかのごとく、ゲートが現れる。無機質な灰色の路地裏にも関わらず、目の前のゲートの中には、青々とした草原と森が広がっている。
「通常空間ではありません。正体不明の異空間です。でも、なんだか綺麗ですわ」
カシマが呑気なことを言っとるが、これは一体なんなんだ……? 転送の類いなのか、何かの具現化なのか。
「入っても大丈夫だと思う?」
「不明です。内部スキャンの結果は問題ないようですが。いや、いきなりゲートが現れた時点で問題ですが ね」
「万が一の為、障壁と戦闘スーツを展開します。体力に問題はありませんか?」
カシマさんは戦闘準備万端だ。全然呑気じゃないね。
え? 勿論疑ってなんかいないよ?いいね?
「なぁ、今古いって漢字、出てたよな? 目の前にドーンと」
「Y、「古」の字が出ましたね」
「古河市の由来ってしってるか? 茨城の」
「不明です。アーカイブに無いので……現在はネットワークにアクセス出来ない為、情報が不足しています」
そりゃあアーカイブに無いよなぁ。
「古河市ってな、俺が知る限りは、空閑って言葉から来ているらしいんだ。未開の地って意味だ」
くぐったゲートの中には、手付かずの『未開の地』が広がっていた。
「やっぱ茨城だわ」
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