第13話
「私は3つ数えたら後ろを振り向きます。ミナト様はそのまま絶対にこっちを振り向かないでじっとしていてください。」
「……うん。ちなみに、勝算はある?」
「見くびらないでください。こんなの楽勝なんですから。」
「1。」
「2。」
「3。」
普通は3…2…1…だと思うんだけど、そこはこの世界の普通なんだろうか?
ミサが勢いよく後ろを振り、鞘から剣を取り出す音が聞こえる。
背後から獣の叫び声のようなものが聞こえる。狼のような声。
「はあ!!」
ミサが剣を振るっている。姿は見れないけど、剣の音や俊敏に動く音が響く。
「キャウン!」
しばらくの交戦の末、狼のような獣が痛がるような声が響き、地面に倒れる音がする。
「ミナト様。もう大丈夫です。」
僕は恐る恐る振り返る。
「ミサ……怪我してる。」
「すみません。ちょっと想像以上の動きだったので避けきれませんでした。」
ミサの左肩に爪で引き裂かれたような傷がある。
「大丈夫!?」
僕は慌てて駆け寄る。致命傷ではないけど、かなり痛々しい。
「平気です。回復魔法で治します。」
ミサは呪文を唱えると、白っぽい光を放ち、光が収まると共に傷口が消えていく。
「すごい。」
僕は傷口を見る。でもちょっと爪で引き裂かれたような傷が微かにだけど残っている。
「あれ?傷口は残るんだ?」
「……はい。あくまでも治癒の魔法です。傷ついた肉体は完全に元通りになるというわけではないのです。」
僕はミサの傷痕を触る。女の子なのに傷痕が残るほどの怪我をさせてしまった。ちょっと心が痛む。
「ミナト様!?」
「ごめん。ボクが足手まといなばっかりに……。」
「私の不徳のせいですから!」
「ミサも女の子なんだから……本当に気を付けてよ。」
「……ミナト様。」
ミサは少し真面目な顔になる。
「私は……この任務に誇りを持っています。護衛役とは命じられた要人をお守りするのが仕事。この仕事を全うし、要人をお守りできることに喜びを感じるのです。」
「……ミサ。」
なんて強い子だろう。
「ですから、私のこの怪我も功績のひとつなのです。私はこの傷を聞かれるたびに、今の戦いでミナト様を守れたことを誇らしく語ると思います。」
「強いね……ミサは。」
「いえ、まだまだ未熟です。日々精進ですよ。」
そう言うとミサに笑顔が戻る。
「では、参りましょうか。」
「うん。」
僕とミサは再び神殿に向けて歩き出す。ミサはそっと手を差し出す。
「ミサは甘えん坊だね。」
「ふふっ。女の子ですから。」
ウィンクをするミサはとても可愛い。仕事に忠実で真面目なミサがふと普通の女の子に戻る瞬間のギャップがすごく魅力的だ。僕はミサの手をしっかりと握る。
「ミサ、また何かあったらボクの護衛をしてくれない?」
僕はミサに少し興味を抱いていた。どうしても、また再会できるきっかけを作っておきたかった。
「ミナト様が命じていただければ、いつでも。」
「ありがとう。」
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神殿に到着してミサと別れた後、僕は一度自室へと戻ることにした。
「ふう。」
ベッドに腰かける。無事に帰ってこられた安心感からか、自分の体がしっとりと汗ばんでいることに気付く。
「シャワーを浴びたいな。」
この世界ではシャワーというものはあるのだろうか?昨日お風呂に入った限りではそういうものはない感じではあったけど……。
自分の両手を見つめる。
湊ちゃんの手。湊ちゃんの素足。髪。好きな子の体になっているというこの事態に、僕は今冷静に対処している……わけもなく、太ももに視線が行く。
「……くっ!」
顔を左右に振る。消えてくれ、僕の邪な思考。
コンコン。
扉をノックする音。
「ど、どうぞ。」
「失礼します。ミナト様、お帰りなさい。」
シャリーさんだった。
「た、ただいま。」
「どうされました?動揺されているようですが?」
「な、何でもないよ!うん!あはは。」
不思議そうに僕を見るシャリーさん。
「外の外気で不快ではありませんか?もしよろしければお風呂をご用意いたしますが?」
「それは助かるよ。」
「ではご用意しますので、準備が出来次第従事が迎えに上がります。」
「うん。」
「お一人でのお風呂ですが平気ですか?」
「えっ!うん!平気!」
また一緒に入ろうって言われたら本当に罪の意識に苛まれそうだ。
「では、まだお勤めが残っていますので失礼します。」
「うん。ありがとう。」
再び一人になる。
「……あっ。」
ふと思い出して声に出してしまう。そう、この体は湊ちゃんなのだ。
「何度もごめん、湊ちゃん……。」
謝りつつ、僕の心臓の鼓動は高まっていくのだった。
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