第10話
「ごちそうさまでした。」
手を合わせる。
「ミナト様、このあと私は朝のお勤めがありますので席を外しますが今日はいかがなされますか?」
「どうしようかな?」
「護衛をお付けしますので、少し周辺をお散歩なさるのはどうでしょう?」
確かにこの世界の事をもっと知る必要がある。いい提案だ。
「うん。そうしようかな。」
「それでは護衛には声をかけておきますので、正面口で警備に旨をお伝えください。」
「ありがとう。」
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
一度自室へ戻り鏡を見る。
髪が少し乱れている。
僕は近くにクシが無いか探していると、化粧台の隅に置かれていた。
まるで女性を招き入れる部屋のように、化粧品や生理用品らしきものまで全部備品のように置かれている。
「……そういえば。」
僕は急に心臓の鼓動が高まっていた。
その、あれだ。女の子の日と呼ばれるイベントがもし起きたらどうすればいいんだろう?
そうなる前に元の世界に戻れるだろうか?
「ああ!考えちゃだめだ!」
僕はクシを勢いよく手に取ると鏡の前に戻る。
丁寧に
綺麗だ。口には出せない。今は自分なのだから。
「よし!」
綺麗に整えられた髪。女の子って結構楽しい。男だった時は髪を梳くなんてただ寝癖を直す程度の軽い考えでいたけど、女の子はそうじゃない。
コンコン。
扉をノックする音が響く。
「はい。」
「ミナト様。ご準備はできましたでしょうか?本日護衛を任された者ですが。」
僕は扉を開ける。
「わざわざありがとうございます。」
ってあれ?女の子?
「恐縮です。では、外へご案内します。」
「あ、あの!」
「はい。なんでしょうか?」
「君の名前は?」
「神殿護衛役のミサと申します。ミサとお呼びください。」
「はい。」
「あの、楽なお言葉で結構ですよ。」
「それじゃ遠慮なくそうするよ。」
敬語じゃなくていいらしい。
「では、ご準備はよろしいですか?」
「うん。今日はよろしく。」
ミサに案内されながら外へと向かう。
相変わらず神殿の中は豪華の一言しかない。歴史を感じさせる装飾。こんな大きなところの責任者を務めるシャリーさんは本当にすごい人なんだな。
そんな事を考えながら数分間歩き、ようやく正面口へ到着する。
護衛の二人によって扉が開かれ、外から眩しいほどの光が差し込む。
「うわぁ。」
彫刻公園のような中庭。噴水や人の手によって造形された木々。目が覚めた時は神殿の中に居たから気付かなかった。
「くすっ。」
ミサが微笑む。
「な、何かおかしかった?」
「申し訳ありません。なんだか初めて外を見る子供のように目が輝いていらっしゃるので。」
「ははは。この世界で外を見るのは実は初めてなんだよ。」
「そうなのですか?」
「うん。ボクは昨日この世界に迷い込んできて、ここがどういう世界でどういう経緯でやってきたのかすら分からない状態なんだ。」
「そうでしたか。何か分かるといいですね。」
「うん。」
僕は歩き出す。レンガ張りのような地面。芝生を歩きたいけど入るのを躊躇うくらいに綺麗に手入れされていた。
東側に白い木々で作られた鳥かごのような形の小さな小屋を発見する。
「ミサ、あそこは?」
「はい。あそこはお茶をするテーブルです。今日のように天気がいい時にシャリー様がよくお茶をされます。」
「へぇ。確かに気持ちよさそう。」
中世の貴族社会を生きる人みたいだな。
豪華な庭園を歩き、塀までたどり着くと再び扉があり警備の男の人が立っていた。
「ミサ様、お出かけですか?」
「ええ。ミナト様の護衛です。開けてください。」
「はっ。」
さっきのように扉が左右に開かれる。
「ミナト様。」
「ん?」
「ここから先は神殿の外です。私から離れないようにしてください。」
「まさか……魔物とか居たりしないよね?」
ファンタジー世界では定番だ。
「はい。その通りです。」
「え!?本当に居るの!?」
「はい。ミナト様はご冗談でおっしゃったのですか?」
「……ま、まさか……そんなわけないよ。」
するとミサは僕の顔を覗きこんでくる。
「ふふっ。本当ですか?」
可愛い。長いまつ毛に綺麗な青い瞳。一言でいうと美少女だ。
「ほ、本当だよ。」
「そういうことにしておきますね。」
ミサに嘘は通じない気がしてきた。
「なんだか空気が
「はい。神殿内はシャリー様のお力で空気が清浄され私たちは何の影響もなく生活できています。」
「この原因って?」
「この世界は破滅へと向かっていて、その兆候として木々も枯れはじめていて、作物はあまり収穫できなくなってきています。」
「終わりに向かっている世界ってこと?」
「……あまり大きな声では言えませんが、この星の寿命だと言われています。」
「……。」
終わりが近い世界。こんな世界に転移した理由ってなんだろう?まさか僕がこの世界の終わりを阻止するわけじゃないよな?
「ミナト様。外に居られる時間は30分くらいが限界です。それ以上留まるとお体に障ります。」
「うん。ミサも調子が悪くなったら無理しないで言ってね?」
「あら?お優しいのですね。」
「そんなことないよ。無理して付き合ってもらうのも悪いなって思っただけ。」
「ありがとうございます。」
さっきミサは木々が枯れ始めていると言ったけど、そういう兆候はこの付近にはない。ただ、雨が降る前の湿度の高さに似たような空気の澱みを感じる。
ゆっくりと吹き抜ける風が気持ち悪い。こんなにも良い天気なのに物凄い湿度を感じる。
そういえば、僕が倒れていたところってどこだろう?聞いておけばよかった。
少し歩くと小川を発見する。僕は小川に手を入れようとすると慌ててミサが手を掴み水に浸かる手前で止められる。
「いけませんミナト様!」
「え?」
「不用意に水に手を触れてはなりません。先ほど言いましたけど、この世界は破滅へと向かっているので水も汚染されてきているのです。生水はほぼ飲むことはできません。」
「そ、そうだったんだ。」
こんなに綺麗な景色も、破滅から目を背ける為の人工的なものだというのか?
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