第8話
「し、失礼しまーす。」
とても部屋が広く、ここもホテルのロビーなんじゃないかって思うくらいの大きさだった。
「ミナトさんって、なんか反応がいちいち男の子っぽいわね。」
「えっ!?」
一瞬鼓動が高鳴る。
「冗談よ。私が恋した人に反応が似てただけ。」
「へえ……ん?……えっ!?」
恋した人!?彼氏いるんですか!?
「な、なによ?でも、この神殿では恋愛なんて許されないわ。今はもう昔の思い出よ。」
「恋愛禁止?」
「そうよ。ここは聖剣を祭る神殿。私たち姉妹はただ聖剣を守る為だけの存在。それ以上を望むと秩序が壊れてしまうわ。」
「……。」
よく分からないけど、少し悲しい。
「でも、ルカちゃんは恋をした。」
「……そうよ。」
「その人は今どうしてるの?」
「言わないとダメ?」
「ちょっと知りたいかな。」
するとルカちゃんは席を立ち、天井まで続く大きな窓の前に立つ。窓に反射したルカちゃんはとても悲しい顔をしていた。
「……死んだわ。」
「え?」
「ごめんなさい。これ以上は話せないわ。思い出したくないの。」
「……なんか、ごめん。」
余計な事を聞いてしまったようだ。
「それより、ミナトさんの質問に答えないとね。」
ルカちゃんは外を見たままだ。
「うん。色が意味するものって何?」
「赤は怒り、青は悲観、黒は闇、白は平和、緑は穏やかさ、紫は嵐。」
「覚えきれないよ。」
「ミナトさんが覚える必要なんてないわよ。」
クスっと笑う。
「これからさ、都度色の意味を聞いてもいい?」
「ええ。その時私の気が向いていたら答えてあげるわ。」
ものの五分くらいで僕の用件は終わってしまった。部屋に来る前「長いわよ?」って言ってたわりにシンプルすぎる。
「……。」
「……。」
お互い無言。なんだろう、この何とも言えない緊張感。
「ルカちゃん。」
「なに?」
「……長くないよね?」
するとルカちゃんの頬は急に赤くなる。
「わ、悪かったわね!!」
何か様子がおかしい。こういう展開は、昔やったゲームであった。そう、怖い夢を見たヒロインが、主人公の男の子の部屋に一緒に寝てもいいかと訪れるイベントである。
「ルカちゃん……もしかして。」
僕はこの自分の直感を口にしてみる。
「怖い夢でも見て眠れなくなった?」
「なっ!?」
顔が真っ赤になる。耳まで赤い。
「わ、私が怖い夢ごときで……怖がるわけないじゃない!な、何を言い出すのミナトさん!」
明らかに動揺してる。僕はルカちゃんの隣にいき、頭を撫でる。
「よしよし。」
「!」
抵抗しない。相変わらず顔が真っ赤だ。
「怖くない、怖くない。」
頭を撫でる。今思うとこんなに女の子の髪を撫でるのって初めてかもしれない。VRゲームをしておいてよかった。訂正、ちょっと虚しくなったから今の発言は無しで。
「眠るまで、話相手にでもなろうか?」
「……いえ、それは結構よ。」
即答の拒否。
「あらら、悲しいな。」
「……ミナトさんはお姉さまに気に入られているわ。だから、私はあまりお姉さまが嫉妬するよなことは避けたいの。」
「嫉妬?」
「……なんでもない。」
ルカちゃんはふいっとそっぽを向いて、自分のベッドへと向かう。
「ミナトさん。」
「ん?」
「あなたはとても不思議な人だわ。なんか、昔の彼のことを思い出させる。」
「……そう。」
「ええ。そう。」
「ルカちゃん、またその人に会いたい?」
「ええ。会いたいわ。」
いつか、詳しく教えてくれる日がくるだろうか?でも、僕はそこまでここに長居できるのかすら分からない。
「もう休む?」
僕はベッドに座るルカちゃんに声をかける。
「いいえ。ここからもう少し月を眺めるわ。」
上を見上げると、天井が透明になった。これも魔法だろうか?
「すごい、天井が透明になった。」
「ふふっ。私のとっておきの魔法。」
「ロマンチックだね。」
お互い笑いあう。
「ルカちゃん、今ボクはどんな色をしてる?」
気になって聞いてみる。
「知りたい?」
「うん。」
「黒いわ。」
「え?」
「なぜか今、ミナトさんの色は黒だわ。」
色というのは意識しないと見えないのか、黒と知った途端、ルカちゃんは少し警戒の目で僕を見る。
「ル、ルカちゃん!ボクは何もするつもりはないよ!」
慌てて弁解する。すると、ルカちゃんは魔法で白い短剣を生み出す。
「ルカちゃん!?」
僕は驚いて身構える。
「そんなに構えなくても平気よ。」
するとルカちゃんはその短剣を僕に渡す。」
「受け取って。」
「うん。」
ベッドのそばに行き、短剣に触れる。
「それで私を刺せる?」
「え?」
「私を殺せる?」
「そんなこと!できるわけない!なんで殺さなくちゃいけなんだよ!」
僕はつい叫んでしまう。冗談じゃない。僕がルカちゃんを刺す理由なんてまったくないのだから。
「……ふふっ。」
軽く微笑むルカちゃん。
「ミナトさんは不思議ね。色は黒いけど、危険じゃない。それに私もミナトさんはそんな人じゃないって無条件に思えるの。」
「驚かせないでよ。」
僕は一気に体の力が抜け、床に座り込む。短剣もいつの間にか消失していた。
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