第7話

いや、ダメだ。僕にはみなとちゃんという人がいるんだ!

「え、遠慮しておくよ。」

女の子と一緒に寝たことなんてないけど、やっぱりそういうのって湊ちゃんとしたい。

「あら、残念ですわ。それでは従事にお部屋に案内させますわ。また明日お会いしましょう。」

「うん、おやすみ。」

「おやすみなさい。」

きびすを返した瞬間、少し冷たいトーンで背中に声をかけられる。

「ミナト様。この神殿には触れてはならない部屋も存在します。くれぐれも寄り道をせずまっすぐにお部屋にお戻りくださいませね。」

……それは、その部屋を覗いていけという意味なのだろうか?それとも、本当に忠告なのか。今の僕にはその意図が理解できない。

「うん。」

そう返事を返すしかなかった。部屋の外に出ると、さっきの従事さんが扉の前で待っていた。

「お戻りですか?」

「はい。」

「では、こちらです。」

騎士のような従事さんと部屋へと戻る。僕はさっきのシャリーさんの言葉が気になっていたので従事さんに聞いてみることにした。

「あの……。」

「なんでしょうか?」

前を歩く従事さんは足を止め、僕のほうを向いた。

「えっと、さっき、この神殿には触れてはならない部屋があるって聞いたんですけど何かご存じ……ですか?」

「……。」

聞いてはいけなかったのかもしれない。一瞬表情が硬くなったことに気付いてしまった。

「ミナト様。」

「は、はい!」

「何事も、知るタイミングというものがあります。あなたはまだそのタイミングではありません。あまり未知の案件に関わるといずれ後悔することにもなりかねませんよ?」

どういうことだ?そんなに僕にとって不都合な部屋があると言わんばかりの言い方だ。それとも、気にしすぎだろうか。

「……。」

「ミナト様。」

再度僕の名前を呼ぶと、従事さんはさやから剣を引き抜き、僕の首にあてがう。

「えっ!?」

「いいですか?三度目はありません。あなたはまだそのタイミングではありません。理解できませんか?もし理解できないのであれば、あなたはここで命を落とすということになります。」

「……。」

恐怖で声が出ない。剣を首に当てられるなんて人生ではじめてのことだ。微かに触れている刃の冷たさが伝わると同時に、少しでも前に踏み出すと首が切れてしまう恐怖が襲う。

「何をしているのあなた!!」

背後から威勢のいい声がかかる。ルカちゃんだ。

「その剣を降ろしなさい!命令よ!」

「……はっ。」

素直に命令に従う従事さん。

「あなた、客人に刃を向けるとはどういう事なの?ただでは済まないわよ!」

「もうしわけございません。ルカ様。」

「大丈夫?ミナトさん。」

「……。」

まだ声が出ない。首から剣が離され、鞘へと戻ってゆく。

「ミナトさん?」

僕は腰が抜けてしまい、その場に座り込んでしまった。情けない。

「大丈夫!?」

心配そうに駆け寄るルカちゃん。意外とやさしい。

「……へ、へい……き。」

ようやく声が出た。

「そう。よかった。」

ルカちゃんは従事さんのほうを向く。

「ミナトさんは私が部屋に送り届けるわ。あなたはもう戻りなさい。それと、今をもってミナトさんの護衛を解任します。夜間警備と交代しなさい。いいわね?」

「はっ。」

「それと、今の件は明日、お姉さまに報告するわ。これは本神殿の名誉にも関わることだわ。あなたも自覚しなさい。」

「はっ。」

「行きなさい。」

冷たい目でそう言い放った時、僕は少しルカちゃんの威厳の強さに驚いた。ルカちゃんはこんなにも強い。力はあるか無いか分からない。でも、この威厳の強さは誰が見てもそう感じるだろう。

「さ、行きましょう。立てる?」

「……うん。」

「うちの従事がごめんなさい。気を悪くしないで。」

「平気だよ。」

あまり言葉が出てこない。まだ恐怖が残っている。

「どういう状況であんなことになったの?」

ルカちゃんは僕の隣を寄り添うように歩く。

「さっき……、シャリーさんから……その……触れてはいけない部屋……があるって……聞いたから。」

声を絞り出す。

「そう。それで従事に聞いてみたってところかしら?」

「うん。」

「ミナトさん。ひとつ忠告するわ。」

「何?」

「この神殿では、従事は単に世話役よ。友達でもなければ、案内役でもないわ。従事たちの役割は私たちの身の安全と神殿全体の護衛よ。分かった?」

「というと?」

ちょっとまだ理解できない。

「従事は神殿を守るのが仕事。あなたは神殿の客人よ?神殿の者ではないわ。つまり、あなたが神殿に害をなすものと判断されたとき、あなたは敵になるのよ?」

「!」

そういうことか。つまり、神殿の無関係な人間が触れていい話題ではなかったということだ。きっとその部屋には何か重要な秘密が存在するのだろう。

「理解できた?」

再確認を促すルカちゃん。

「うん。今後気を付けるよ。」

「偉いわ。」

頭を撫でるルカちゃん。

「子供扱いしないでよ。」

「あら?私より年下じゃないの。」

笑顔を見せる。全然年上には見えないけど、彼女はある意味強いお姉さん的オーラを出していた。

「もう。」

僕は溜息をつく。

「ミナトさん。」

「んー?」

「さっきは黒い色が見えるって言っちゃってごめんなさいね。今は白い色が見える。それと青色。」

「その色の解釈とかって聞いてもいい?」

「それなら私の部屋に寄っていく?長いわよ?」

あまり眠気もないし、その提案に乗ろうと思う。

「うん。」

「じゃ、行きましょう、こっちよ。」

僕の部屋とは反対の廊下へ曲がり、庭園のような空間を通りながらルカちゃんの部屋の前につく。従事さんが入口に二人、立っていた。従事さんは無言で扉のノブをそれぞれ持ち、扉を開ける。

「ほえ~。」

その行為に間抜けな声を出してしまう僕。

「どうしたの?さ、入って。」

「う、うん。」

一日に二度も、それも違う女の子の部屋に入るとか、僕、一気に春が来てるって感じがするな。ちょっと感動。

部屋に入ると、真ん中にあるテーブルへと案内された。

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