第5話
ルカちゃんも加わり、三人で湯船に浸かっていた。本来至福の時間なんだけど、僕はそれどころではなかった。
「ちょっと……ルカちゃん?」
すごい睨み付けるような視線をさっきから感じるんだけど。
「なによ?」
「ボ、ボク、何かしたかな?結構視線が痛いんだけど。」
「……別に。」
僕には態度がちょっと冷たい。
「ごめんなさいミナト様。」
シャリーさんが申し訳なさそうに頭を下げる。
「いや、気にしてないから。」
めっちゃ気にしてますけどね。
「ミナトさん。何かあなた、青い色が見えるわ。」
「青?」
「あなた、本当に女の子?」
ドキッ。まずい。
「も、もしボクが男の子だったらどうするつもり……なのかな?」
試しに確認してみる。
「殺すわ。」
ルカちゃんが即答。
「こらルカ、物騒な言葉を使ってはいけないわ。せめて消し去るって言いなさい。」
意味、一緒ですよね!?
「シャ、シャリーさんはどうする?」
「塵と化してみせますわ、ふふっ。」
消すってことじゃん!
「……あはは。」
乾いた笑いになってしまった。危険だ。この二人、やっぱり姉妹だ。
するとルカちゃんがお湯の中からボクの体を触ってきた。
「!?」
お湯は緑色で不透明なのでシャリーさんからは見えない。本当に疑っているようだ。
「ちょっと、ルカちゃん?」
「(それ以上声を出すと、魔法でマヒさせるわよ。)」
「!?」
直接脳内に声が響く。シャリーさんには聞こえてないようだ。
「(いい?あなたの体を触れば分かることよ。騒いだらどうなるか分かってるわよね?今、あなたと私の間には特殊なテレパシーで繋がっているから、心の中でつぶやいたことが私に聞こえるようになってるわ。)」
「(聞こえる?)」
「(うん。)」
本当に心の声がルカちゃんに届いてる。
「!?」
ルカちゃんの手が胸の下に触れ、膨らみを下から上に軽く持ち上げる。それから、逆の手が僕の両足の間に一瞬触れる。
「(ついてないわね。)」
「(何が?)」
「(分かりなさいよ。)」
可愛い顔で大胆だな。
「どうしたの二人とも。見つめ合っちゃって?」
シャリーさんが不思議そうに眺める。
「え?いえ、何でもないです、お姉さま!ね、ミナトさん?」
「あ!うん、何でもない!」
この子、ぶりっ子だな。シャリーさんの前ではお行儀いい妹を演じている。
「(あなたはなぜ青い色をしているのかしら?)」
「(ボクが知りたいよ。)」
ところで。ルカちゃんの圧力で忘れてたけど、この体、湊ちゃんなんだよね。ちょっと見たい……。まだ見てないから、余計気になってきてしまう。視線が自然とシャリーさんにいく。
シャリーさんって、結構スタイルいいんだよな。女の子ってなんでこんなに柔らかいんだろう。女の子にならないと分からないことって結構あるな。
「あ、あの、ミナトさま?」
恥ずかしそうにシャリーさんが声をかける。
「え?」
「あの、そんなにまじまじと見つめられたら、さすがにちょっと恥ずかしいのですが……。」
「あ、ごめん。」
ついつい凝視してしまっていたらしい。
「ちょっと!お姉さまに失礼でしょ!!」
ザバーンっとお湯のいい音が響き渡り、ルカちゃんが立ち上がる。ルカちゃんの一糸纏わぬ姿がボクの目の前に現れる。
「ちょっ!!た、立たないで!」
ダメだ、刺激が強すぎる。
僕はそのまま意識が遠ざかる。
「ミナト様!?」
シャリーさんが驚く声がしたと同時に、僕の意識は闇に落ちた。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「……ん?」
目が覚めると、さっきと同じ天井だった。
「あれ?ボク……。」
お風呂でルカちゃんの姿を見て気を失ってしまったんだっけ?
「お気づきになりました?」
シャリーさんがベッドの脇の椅子に腰かけ、
「あ、ありがとう。」
「どういたしまして。」
優しい笑みを見せるシャリーさん。なんだろう……不思議と安らぐ。
「ミナト様って不思議な方ですわね。」
「どうして?」
「だって、何だか異性のような感覚を覚えてならないのです。どこからどう見ても、女性のミナト様だというのに。」
ちょっとシャリーさんも感じ取るものがあるのだろうか?
「どうしてだろうね?」
僕は
「何か飲み物を用意いたしましょうか?」
そう言われて、ちょっと喉が渇いている事に気付く。
「うん、お願い。」
「今お持ちします。」
今回は従事を使わずに自らが部屋から出て行った。
「マヌーサさんに頼まなかったな。」
僕は改めて自分の体を見る。確かに湊ちゃんの体だった。ま、まだ裸は見てないぞ、うん。
誰ともなく弁解する。
それはそうと、これからどうなるのだろう。目が覚めたら現実に戻っているっていうオチがあるのなら、今日はどれだけ貴重な体験をしただろう。でも、心の奥底では理解している。きっと次の日に目が覚めても今のままだと。
それと、僕がこの異世界に来た意味は何なのだろう?何か成し遂げるべきものがあるのか?それとも、ただの気まぐれで転移しただけなのか。それであるならば、なぜ僕は湊ちゃんの姿なのか?
「うーん、分からない。」
どれひとつ、解決策が見出せない。それもそうだ。今日は色々ありすぎた。
「失礼します。」
ドアがノックされ、シャリーさんが戻ってきた。
「どうぞ。」
さっきと同じデザインのグラスを渡される。
「ありがとう。」
味もさっきと同じ。スポーツドリンクのようだけど甘味がそんなにない不思議な飲み物。
「おいしい。」
「それはよかったです。」
嬉しそうに微笑むシャリーさん。
「それでは私は自室に戻ります。もし、眠れないようでしたらいつでも私の部屋においでください。部屋の前にミナト様の護衛の従事がおりますので、私の部屋まで案内させるように頼んでみてください。私がお話を通してありますので。」
「う、うん。ありがとう。」
今まで女の子とこうも長く話す事が無かったから、すごくドキドキした。変な意味ではなく、こう、女の子ってこんなにも癒しをくれる存在なんだっていう意味で。
「では、おやすみなさい。」
「うん、おやすみ。」
シャリーさんが部屋をあとにしてから、僕はまたこれからのことを考えるのだった。
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