第3話
一体何がどうなっているんだ・・・。
「失礼します。」
上品な声が響く。
「えっ!?」
ブロンドのショートヘアに西洋の騎士のような服。ここって日本じゃないの?
「目が覚めたと聞いてお伺いいたしました。ご気分はいかがですか?」
ブロンド少女は上品に挨拶をする。
「あ、は、はじめまして。気分は、その、平気です。」
「よかった。マヌーサ、あれを。」
「はい、シャリーさま。」
シャリーと呼ばれた少女は、マヌーサさんから得体のしれないグラスを受け取ると私にそっと差し出してきた。
「どうぞ。」
「あ、ありがとうございます。」
なんだろう、これ。緑色なんだけど。躊躇いながら一口だけ飲む。意外とおいしい。スポーツドリンクのような味がした。でも、甘さはあまりない。
「お名前をうかがってもよろしいですか?」
シャリーさんも同じグラスを手に取り、ベッド脇のテーブルに腰かけた。
「ボ、ボクは……」
ここで
「み、湊です。」
「ミナト様?」
「様なんてやめてよ!そんな立派な人間じゃないから!」
「とても素敵なお名前ですね。」
「えっ?」
慈悲深い微笑み。可愛い……。
「ところでミナト様。」
「はい?」
「お体は多少は従事に拭かせましたが、ご不快でしょう?よろしければご一緒にお風呂でもいかがですか?」
「シャリーさま!」
マヌーサさんが止めに入る。
「いいのよ、マヌーサ。私はこの方に邪気を感じないの。私を信じて。」
「……失礼いたしました。」
マヌーサさんは一礼し、一歩下がる。
「どうでしょうか?」
「えっ!ま、まずいよ!それは!」
女の子とお風呂なんて、犯罪じゃないか!
「なぜ、まずいのですか?」
シャリーさんはさぞ当たりまえの質問をぶつけてくる。まさか僕が見た目は女の子だけど中身は男の子なんて知る由もないだろう。どこかの名探偵もびっくりしそうだ。
「まだおひとりでお風呂は危ないと思いますよ?ご一緒なら安心でしょう?」
「いや、それはそうなんだけど……、その、恥ずかしいじゃない?」
「同じ女性同士、何も恥じることはありません。」
「シャリーさん。」
「はい。」
「失礼ですが、今おいくつですか?」
「私ですか?21歳ですが?」
え?年上!?僕と同じか下くらいなんじゃないかっていうくらい幼さが残っている。
「何か問題がありますか?」
「いや、あの、ボク18歳だから、うん。」
何が「うん」なのか自分でも分からない。
「でしたら、私の言うことに従うのは年齢的に適当ではありませんか?それでは参りましょう。」
「えっ!?うそ!?」
シャリーさんに腕を掴まれ、部屋を後にする。廊下に出ると、とても派手な装飾の天井、見たことのない絵画など、まるで神殿だ。
「ここは?」
僕は思わず口にする。
「あ、ご案内がまだでしたわね。ここは聖ラグナロク神殿。聖剣ラグナロクが祭られている神殿です。私は第48代聖ラグナロク神殿、最高管理賢者を務めさせていただいていますの。」
「え?ここの最高責任者ってこと?」
「そういうことです。とはいえ、まだまだ未熟者なので、周りの従者に助けてもらいっぱなしです。」
恥ずかしそうに、そして誇らしそうに笑う彼女は、とても可愛い。
「さ、こちらですわ。」
「字が読めない……。」
「え?」
大きな看板があるけど、字が読めなかった。
「ミナトさまは、どちらのご出身なのですか?」
「日本だけど?」
「ニッポン?聞いたことがありませんわね。」
「え?日本知らないの!?一応先進国だよ?」
「先進国?ごめんなさい。存じ上げませんわ。」
……。ここ、日本じゃないのは確かだけど、もしかして地球ですらないのか?
しばらく歩くと、大浴場に到着した。
「大きい。」
すごく大きい浴場。普通に民間企業が経営する温泉みたいな大きさだ。
「二人だけの貸し切りです。ふふふ。」
シャリーさんは嬉しそうだ。
「シャリーさま、この方は?」
浴場の従者が不審な目で見る。それはそうだろう。今日出会った見知らぬ僕だ。
「いいの。何かあれば教えるわ。ここで待機して。」
「かしこまりました。」
一礼し、従者は脱衣室から退室し、入口付近でこちらに背を向けた。もちろん従者は女の人だ。でも、護衛だけあってその腰には剣を携えている。
「では、参りましょう。」
「は……はい。」
覚悟を決めないと、もう後戻りできない。
「ここで脱いでいただければ、従者が新しい服を準備しますので。」
「は、はい。」
「えっ!?」
布が擦れる音と共に、シャリーさんのスカートが地面に落ちる。
「どうかされました?」
「シャリーさんって下から脱ぐタイプ?……じゃなくて!もう脱ぐの!?」
「ええ、ここは服を脱ぐところですのよ?」
最初の質問はスルーされたようだ。
「うう……。」
「ミナトさま?」
恥ずかしい……。どうすればいいんだ。僕は、シャリーさんの裸と、この体。そう、湊ちゃんの裸まで見てしまうことになるではないか!
どうすればいいんだ……。
前途多難な入浴となってしまった。世界にお風呂に入るだけでこんなに悩む人ってほかにいないんじゃないのか……。
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