第2話

翌日。ついに放課後が訪れる。

「緊張する……。」

思わず緊張が口から出る。湊ちゃんの方を見ると、鞄に教科書を詰め込んでいる。彼女は真面目だ。僕の視線に気付いたのか、目があってしまった。ど、どうしよう。すると、彼女は声に出さず口だけで合図する。

「ま」

「た」

「あ」

「と」

「で」

軽く微笑むと、彼女はクラスルームを出ていった。

「もしかして、脈ありなのか?」

「何がだよ?」

「うわっ!?」

いきなり真横から声がかかる。秋生だった。

「脅かすなよ!」

「当夜こそ、何やってんだよ?」

「彼女のテレパシーを受け取ってた。」

「口だろ?」

「知ってたのかよ。」

ふぅとため息が出た。

「何?放課後デート?」

で、でーとだと!?

「誰がっ!?」

「いや、当夜、お前だよお前。動揺しすぎだろ。」

「き、今日……、彼女に、こ、告白する。」

すると秋生は驚愕の顔に変わった。

「マジで!?」

「あ、あぁ。マジだ。」

しばしの無言。

「頑張れよ、当夜。」

おい、こっち向いて言えよ。秋生も多分振られるんだろうって確信しているようだ。それもそうだ。だって、彼女はすごく可愛い。クラスでも人気だ。

「秋生、時間になるからそろそろ行くよ。」

「おう、また明日な。結果、教えろよな。」

「あぁ。期待しないで待っててくれ。」

秋生はこっちに背を向けながら、手をひらひらさせながらクラスルームを後にした。さて、僕も急ごう。時計の針は15時10分をさしていた。



商店街を歩く。緊張しすぎて指が冷たい。しかも、少し震える。

「くそっ。踏ん張れ僕!」

自分に渇を入れる。ふと、目の前に幼稚園生くらいの女の子が泣いていた。

「どうしたの?」

僕は無視できず声をかける。

「崖の方に帽子が飛んでいったの。」

森林公園は商店街の崖の下のほうにある。幼稚園生が指差した場所は立ち入り禁止で、足を踏み外すと崖下に真っ逆さまという危険な場所だった。

「ここは立ち入り禁止だしな。」

そう告げると余計に泣かせてしまった。

「分かった分かった!お兄ちゃんが取ってやる。」

イレギュラーな事態だ。仕方ない。僕は柵を飛び乗り崖の淵に向かう。よく見ると、崖から飛び出た茎にちょうど帽子が引っ掛かっている。

「届きそうだな。」

足元に気を付けながら手を伸ばす。

「えっ!?」

帽子を掴んだ途端、強い風が吹き抜けバランスを崩してしまった。

「!!!」

そのまま崖下に落ちる。まるでスローモーションのように感じる。他人事のように事態に身を任せてしまう。抵抗する時間など無い。

「うわぁぁぁ!!」

体全体に強い衝撃が走る。背中が熱い。衝撃で目が見えない。何も確かめられない。

「み……なと……ちゃん。」

約束の時間に遅れてしまう。そんな事を考えながら、僕の意識は闇に落ちた。




―――――――――――――――――――――――――――――――――――――



「んっ……。」

目を開くと僕はベッドに寝ていた。天井は何故かヨーロッパの神殿のような豪華な装飾。病院ではないのは確かだ。

「気が付かれましたか!」

見知らぬ老婆の声が聞こえる。

「あ……なたは?」

まだ意識がはっきりしない。

「私はマヌーサ。この神殿のお世話役です。」

お世話役?何だそれ?

「気分はどうですか?」

「えっと……!?」

ん?声が何かおかしい。この声って……。

待てよ。

ドクン。

心臓が大きく一度だけ鼓動する。

「み、湊ちゃんの声?」

ゆっくりと手元に視線を落とす。

「胸?」

いつもの自分の視界に、見慣れない突起がふたつ。胸だ。

「何か混乱されているようですね。今落ち着けるものをお持ちします。」

そう告げると老婆は部屋を出ていった。

「何でボク、湊ちゃんになってるの?」

扉の隣にある大きな鏡の前に立つ。寝間着のようなものを着ている。誰かが着替えさせてくれたのか?それより。

「湊ちゃんだよ、マジで。」

背中まで伸びる黒髪。いつも僕が見つめている湊ちゃんそのものだ。

「む、胸、結構あるんだ?」

と自分で言ってハッとする。

「ば、馬鹿かボクは!?そんなこと言ってる場合じゃないぞ!」

どうなってる?僕はどうなったんだ?あと、ここは何処なんだ?

目覚めたばかりの僕には大きすぎる課題がいくつも立ちはだかっていた。

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