私の知らないあなた(17)

 私は優斗と自分のリュックをその場に捨て、優斗を背負った。


「しず・・く」


 馬鹿なことを、と優斗が背中で呟いた。


 立つのがやっとの状態で一歩、一歩、足を前に出す。


 初めて会ったとき、優斗がこんなふうに私をおぶってくれた時のことを思い出していた。


 優斗の広くて、たくましくて、安心できる大きな背中。


 絶対に優斗を死なせない。


 私がおぶって下山する。


 優斗は私が一生背負って生きていく。

 

 けれど私の強い思いだけでは現実に太刀打ちできない。

 

 何度も優斗を背負ったまま雪の中に倒れ、やっとのことで起き上がり、また数歩歩いて倒れ、ついには起き上がれなくなってしまった。


 このままでは二人とも本当に駄目になってしまう。


「優斗、すぐに人を呼んで戻って来るから、絶対にがんばっててよ」


 私は優斗を雪の中に横たえ、耳元でそう叫んだ。


 優斗は弱々しく微笑んだ。

 

「うん・・待ってるよ。ありがとう、雫、ありがとう」


 私は転げるようにして雪道を駆け下りた。


 目に口に鼻に雪が入ってきて鼻水と涙で溶けてぐちゃぐちゃになる。


 優斗は最初からこのつもりだったんだ。


 わざと規定量を超える薬を飲んだんだ。


 私でもこの山だったら一人で下山できるから。


 雫、ありがとう。


 優斗の大学ノート、最後のページに書かれた文章も同じだった。





 私は立ち止まった。




 間に合うはずがない。


 いくら早く戻れても間に合うはずがない。


 優斗と私の足跡は降り積もる雪にとっくに掻き消されていた。





 優斗が死んでしまう。




 今さらながらその現実が私に降りてきた。

 

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