私の知らないあなた(18)

 しばらくすると青く晴れていた空が翳りをみせ、重い灰色になったかと思うと、ちらちらと白い雪が落ちてきた。


 雪が静かにまた雪の上に降り積もる。


 音のない白い世界は幻想的だった。


「雫」


 優斗に呼ばれふり返る。


「なに?」


 優斗は立ち止まり真剣な目をして私を見つめている。


「ほんとうにありがとう」


 胸騒ぎがした。


 私はそれをごまかすように笑う。


「どうしたの急に」


 雪が激しくなる。


 あっと言う間に視界が白く霞む。


 雪山に登ることになってから、気象情報を丹念に調べた優斗が今日に決めたのだった。


「今だったらまだ間に合うから、僕たちの足跡が残っているうちにそれを辿って雫は下山して欲しい」


「なに言ってるの?どう言うこと?」


「僕はもう少し登るから、ここから先は雫には無理なんだ。だから雫はここで引き返してくれ」


 優斗が私と雪山に行きたい言い出した時から、私はなんとなく予感はしていた。


「いやよ、絶対にいや、一人で下山なんてしないから、優斗死ぬつもりでしょ!分かるんだから」 


 すぐ目の前の優斗の表情が分からないほど雪は激しく降り続ける。


「そんなんじゃないよ雫。ごめん、でも実はちょっともう歩けそうもないんだ」


 優斗に駆けよると体全体が小刻みに震えている。


 顔が赤く優斗の頬に手を当てると驚くほど熱い。


「優斗どうしたの?熱があるの!?」


「だからもう無理そう・・なんだ」


 優斗はその場に膝をついた。


「優斗!」


「雫、下山してくれ・・」


 今にも倒れそうな優斗の体を支える。


「優斗しっかりして、優斗!どうして?いったいなんで?先生も大丈夫だって」


 混乱していた。



「ごめん、今日張り切り過ぎて薬を飲み過ぎちゃったかな・・」


「薬?薬の副作用?じゃあ先生にすぐ連絡しないと」


 繋がらないと分かっているスマホを取り出す。


 やはり電波は入っていない。


 急いで一人で下山しても二時間はかかる。




 人を呼んでここに戻ってくるまでの時間を計算して絶望的になった。


 


 でも途中で他の登山者と会うかも知れない。

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