私の知らないあなた(17)
私はいつか誰か新しい人と出会って、その人と幸せになって、そしたら優斗のことをだんだんと思い出さなくなって、いつか優斗は私の世界から完全に消えて、でも優斗がこの世界から消えることはない。
私の中の優斗は消えても、優斗の戦いと苦しみは存在し続ける。
優斗が一人で苦しんでいるこの同じ世界で私だけ笑うことなんてできない。
私は絶対に優斗と別れない。
優斗の両親から連絡が入ったのはそれからすぐのことだった。
嫌な予感がしたが、その逆だった。
「優斗がどうしてもと、それに担当医の先生も大丈夫だって」
入院して薬をちゃんと飲むようになったからか、優斗は奇跡的な回復を見せたのだ。
「雫に雪山の銀世界を見せたい」
それが優斗の願いだった。
優斗に会いに行った。
閉鎖病棟の個室ではなく開放的な雰囲気の大部屋にいた。
久しぶりに見る優斗はとても穏やかな表情をしていて、私を見ると本当に嬉しそうな顔をした。
挨拶も交わさずに泣き出すと、「そんなに泣くなよ」と、私の頭をぽんぽんと叩いた。
優斗が選んだ山は私たちが初めて会った山だった。
その日は青い空が高いよく晴れた日だった。
初めてみる山の雪景色に私はただただ感動した。
街中で見る雪よりも白く輝いて見えた。
「上の方に行くともっとさらさらの雪だよ」
小さな雪だるまを作る私を優斗は促す。
「待ってこれ作ったらね」
仕様がないなぁと、優斗も雪だるまを作り、私の雪だるまの横に並べた。
優斗の作った方が少し大きくてまるで私たちのようだと思った。
「雫に足跡のない雪道を歩かせてあげるよ」
優斗はあまり人が行かないコースを選んだ。
「迷ったりしない?大丈夫?」
心配する私に優斗は笑って言う。
「この山は大学の時にトレーニングで何十回も登ったんだ。目を閉じてでも登れるよ」
汚れていない雪の上に自分の足を一歩一歩進めていくのは、最初こそ罪悪感に近いものを感じたが次第にそれは快感になっていった。
ふり返ると優斗がいて、目を合わせ微笑みあう。
優斗が救急車で運ばれて行ったときは、またこんな日がやってくるとは思わなかった。
嬉しかった。
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