私の知らないあなた(17)
私は泣きながら優斗の実家と担当医に電話をした。
優斗はその夜救急車で運ばれそのまま入院することになった。
再発だった。
統合失調症は大きく四段階にその経過が分かれる。
発症の前触れのようなものが現れる全兆期、つぎに陽性症状が現れる急性期、そして陰性症状の休息期、それから症状が治まっていく回復期。
休息期や回復期に再び急性期に戻ってしまうのを再発と呼ぶ。
つまり逆戻りだ。
そんなに簡単に治る病気ではないと分かっていたつもりだったが、それでもやはり谷底に突き落とされたような気分になる。
「雫さんは明日もお仕事だから、病院には私たち夫婦で連れて行きますから心配しないで」
私は一人救急車の外に取り残される。
車の扉が閉まる瞬間、優斗と目が合った。
救急隊員に抵抗して暴れた優斗は担架に縛りつけられていた。
充血した目が、「助けて雫!行きたくない」と言っているようだった。
優斗の部屋に自分のバックを取りに戻る。
さっきは気づかなかったがダイニングテーブルの上に組み立て途中のクリスマスツリーが置いてあった。
優斗のお母さんが?
でもお母さんだったらこんな風に途中で投げ出して放って帰るはずない。
優斗なんだ。
優斗がこれを飾ろうとしていたんだ。
ついさっきまで、きっと私のために。
涙が止めどもなく溢れた。
わけの分からないことをわめき散らす優斗は人ではない違う生き物のように見えた。
それでもその少し前までは無気力の陰性症状と戦いながらも、がんばってツリーを飾ろうとしてくれた優斗がいたのだ。
神さま。
私は心の中で叫んだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます