私の知らないあなた(16)

 仕事と学校のあと毎日のように優斗のマンションに行った。

 

 前のように優斗に夕食を作ってあげたり生活の面倒をみてあげることは週末しかできなくなったが、それは優斗の母親がやるようになった。


 私のいない間、優斗は「雫は?」と何度も聞いてくるそうで、優斗の母親は複雑そうな顔をした。


 その夜も学校が終わって急いで優斗のマンションに向かった。


 歩いていると街のどこからともなくクリスマスソングが聞こえてくる。


 そろそろクリスマスツリーを出して飾りつけをしなくちゃ、優斗にもいい刺激になるかも知れない。


 そんなことを思いながらマンションのエレベーターを待った。



 降りてきたエレベーターの中に優斗が乗っていた。


 壁の方を向きぴったりと張りつくようにして立っている。



 異様な光景だった。


 

「優斗?」


 声をかけるが返事はない。


 部屋着のスエットの上下に足は素足に草履だった。


「どうしたの?こんなところで何してるの?」


 優斗の手を取ると氷のように冷たい。


 ずっとここにこうしていたのだろうか?


「部屋に戻ろう」


 なかなか動こうとしない優斗を引っぱり部屋に入る。


 すると優斗はベランダに出て大声で叫びだした。




「ぜんちにつぐせいしんゆうめいなかみはとおいりかいをするほどれんさとうごうこうしんそしていきというりかいふのうなとうき」




 意味不明な内容だった。



「優斗なにしてるの、部屋にもどろう」


 腕をひっぱり部屋の中に戻そうとするがはねのけられる。


 そしてまたわめき散らす。


 そのうち近隣の窓が開いて「うるさいぞ!静かにしろ」と怒鳴られる。


 その間も優斗は休みなく叫び続ける。


「ほうかいをかんしじょうじょうをするそしてくるいしにいどうしにぶりにしにいかりを」


 優斗が本当に狂ってしまった。

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