私の知らないあなた(15)
ショックだった。
でもわたし以上に優斗はショックだったに違いない。
そういう時の優斗は部屋の隅に丸くうずくまり、まるで置物になってしまったかのように何時間も動かなかった。
以前の優斗が眩しすぎただけにその違いは残酷だった。
優斗は今までとは違う自分の現実と向き合って生きていかなければいけないのだ。
ならば私も同じだ。
以前のように結婚、出産、子育てが人生の目的だった私から変わらないといけない。
私は仕事が終わったあと、歯科衛生士の資格を取るために夜間の学校に通いだした。
優斗はこれから私が守っていく。
私は強く心に決めた。
そのことを亜伽里に話すと亜伽里は怒りだした。
「引き返すなら今だよ、雫!彼の人生に巻き込まれちゃだめだよ。結婚はそんなに甘くないって、今は好きだからそう思うけど、これからもしかしたら何十年も治らないかも知れないんだよ。絶対に後悔するって」
会う度に優斗から手を引けと私を説得しようとする亜伽里とはだんだん疎遠になっていった。
「雫は悲劇のヒロインの自分に酔ってるだけだよ」
最後に亜伽里はそう吐き捨てるように言った。
亜伽里が私のためを思って言ってくれているのは分かっていたが、私は優斗を捨てることなんてできない。
私の優斗への想いが、悲劇のヒロインを装った自己愛だと、どうして他人が決めつけるのだろう。
母親が無償で子どもを守る愛は称賛されるのに、それと同じことを優斗にしようとするとどうしてその愛は後悔すると、本物ではないと、ゆがんだ愛だというのだろう。
私は優斗の恋人でも、妻でも、母親でもなんでもいい。
ただ私は優斗のそばにいたい、支えてあげたい。
私は優斗を愛している。
これが愛じゃないと言うならばそれでいい。
名前のないこの想いを誰も私から奪うことはできない。
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