私の知らないあなた(11)

その日優斗から予定より一時間ほど帰りが遅くなると連絡が入った。


 すでに夕食の準備はできていてテレビでも見ながら待っていようとリモコンを探すが見つからない。


 リビングのどこを探しても見つからないのでベッドルームに行ってみる。


 たまに私はテレビやエアコンのリモコンを他の部屋に持っていってしまうことがある。


 サイドテーブルの上や窓枠など置いていそうなところを探すが見つからない。


 探し物がなかなか見つからないと半分ヤケクソになるのか、まさかそんなところにあるはずもないだろう、というようなところまで探しだす。


 例えばクローゼットの中とかゴミ箱の中とか。


 クローゼットを開けて驚いた。


 中はぐちゃぐちゃだった。


 以前はクリーニングに出された服が整然と並んでかけられていたものが、床に山積みになっている。


 そしてクローゼットの中には服だけではなく、空のペットボトルや空き箱、チラシなどいわゆるゴミだらけだった。


「なに....これ」


 思わず後ずさる。


 右足のかかとに何かが当たった。


 ベッドの下をぞき込むと何冊もの本が積み重なって置かれていた。


 それらを明るいところへ引っぱりだす。


 どれも統合失調症についての本だった。


『統合失調症薬物治療ガイドライン』『脳と心からみた統合失調症の理解』『Schizophrenia』数冊の英語の本まであり、全部で二?三十冊はあった。


 統合失調症と診断され、治療が始まってからの優斗はとても穏やかで、ときどき病気のことについて二人で話したりもしたが、普段の会話は日常のたわいもないことがほとんどだった。


 一冊を手に取りページを開くと黄色いマーカーが何カ所も引かれていた。


 どうして気づいてやれなかったのだろう。


 誰よりも優斗自身が自分の病気を畏れているということを。


 そんな優斗の気持ちも知らず、ただほやほやと結婚生活に憧れていた自分が恥ずかしかった。

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