私の知らないあなた(10)
「別れたくない、別れたくない、別れたくない」
どうして私と優斗がこんな不幸な目に合わないといけないのだ?
どうして優斗が百分の一の確率に当たってしまったのだ。
優斗は困ったように私を見つめていたがやがて諭すように言った。
「じゃあ僕も治療を頑張るから、僕が良くなるまで待っててくれるかな、雫」
「うん、待つ、待つ、いつまででも待つ」
両親を説得した。
私はこんなに頑固で粘り強かったのかと自分自身驚いた。
それは両親も同じだったようだ。
自己主張はあまりなく周りに流されるようにして生きてきた私の初めての主張と抵抗だった。
亜伽里はそれを私の優斗への『依存』であって強さではないと言ったが、私にはそう思えなかった。
優斗はそのまま一人暮らしを続け会社にも行った。
自分の病気を把握し自己管理で薬を飲む優斗に医者も感心していた。
薬を飲み始めてピタリと優斗は私に暴力をふるわなくなった。
キレなくなったのだ。
やっぱり優斗のDVはこの病気のせいだったのだと、優斗のせいじゃなかったのだと思うと、優斗をぎゅっと抱きしめたい気持ちになる。
独り言や独り笑いもなくなった。
まるで昔の優斗が戻ってきたようで嬉しかった。
前よりも頻繁に優斗のマンションに行くようになった。
仕事帰りにスーパーで夕食の食材を買う。
優斗は肉料理よりも魚料理を好む。
ネットのレシピサイトを頼りにかれいの煮付けやいわしの立田揚げなどを作る。
母からも積極的に料理を習った。
それまではご飯をよそうぐらいしかしなかった私に母は手取り足取り料理の基本を教えてくれた。
母もそんな娘との時間が楽しいようで、「優斗くんと結婚したら」などという言葉をときどき口にした。
優斗の帰りを待ちながらキッチンで料理をしていると、結婚したら毎日がこんなふうなんだろうなと想像し、早く優斗と結婚したいとそればかり願った。
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