私の知らないあなた(8)

 ある日優斗は自分のカウンセラーと私ができていると怒りだした。


 散々殴られる。


 優斗のカウンセラーと話したこともなければ会ったこともなかった。


 ごめん、ごめんと謝る優斗にさすがに我慢できくなくなり私は優斗のマンションを飛び出した。


 スマホが鳴り続けていたが無視した。


 駅まで行って財布を持っていないことに気づく。


 すすり泣き謝る優斗のメッセージを聞きながら来た道を戻った。


 部屋の前までくると扉が少し開いていた。


 中から話し声が聞こえてくる。

 

「いやだから違うんだ、違うんだって。僕は悪くなんてない。なんでそんなふうに言うんだよ。え?ひどいな。」


 優斗の声だった。


 誰かと会話をしているような内容だが相手の声が聞こえないので電話なのかも知れない。


 私はそっと部屋の中に入り声のするリビングに向かった。


 優斗は私に背を向けリビングの真ん中に立っていた。


「さっきからなんども言ってるじゃないか。ほんとうに分からない奴だな」


 両脇にだらりと下ろされた優斗の両手。


「ゆうと?」


 優斗は私をふり返る。目が少し赤い。


「雫」


「誰としゃべってるの?」


 優斗は答えずに目を何度かしばたたく。私は同じ質問を繰り返した。


「ねえ、いま誰としゃべってたの?」


「うん」


「うんじゃなくて、誰としゃべってたの?」 


 得体の知れない何かに私は恐怖を感じた。






 その正体が分かったのは五人目のカウンセラーに出会った時だった。


 それまではずっとDVを専門にしているカウンセラーだったが五人目は違った。


 優斗のDVの原因は子ども時代のトラウマでも過度な仕事のストレスでもなかった。

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