私の知らないあなた(7)
小一時間ほどでカフェにやって来た優斗は穏やかな表情をしていた。
カウンセラーからどんなことを訊かれたのか、そしてどんなふうに自分のことを話したのか、改善するためにこれからしていくことなどを事細かに話して聞かせてくれた。
「それとストレス発散のために休みの日は思いっきり好きなことをしなさいだって。今度の休み久しぶりに山に行こうか」
目の前で微笑みながらコーヒーを飲む優斗はもうすっかり治ってしまったようにさえ見えた。
化粧室で髪型を整え、メイクが崩れていないか確かめる。
優斗と二人で登山。
胸が躍った。
自然と顔がほころび笑顔になる。
化粧室を出て優斗の待つテーブルに戻る。
こちらに背中を向けるように座っている優斗の肩が揺れている。
近づくと笑っているのだと分かった。
「どうしたの?」
私も笑いながら席につく。
「なにが?」
優斗はただ座っているだけだった。
てっきりスマホをいじって笑っているのだと思っていた。
「いま笑ってたでしょ」
「そう?」
優斗は何事もないように答える。
変だなとは思ったがその時はさほど気にせずに、すぐにそのことは忘れてしまった。
次の週末二人で山に行った。
新緑と風が気持ちいい日で、優斗は終始穏やかだった。
「雫の作ってくれた弁当をこうやって山で食べるのは最高だよ」
「また来よう、これからちょくちょく山に来よう」
山が優斗を治してくれるような気がした。
「うん、そうだな。それにいつか雪山にも行きたいしな」
山の効果が続いたのは三日ほどだった。
また優斗はちょっとしたことでキレ始めた。
カウンセラーにもちゃんと行っているようだったがあまり効果はなかった。
そのうちに優斗はあのカウンセラーは自分のことが嫌いみたいで、それでカウンセリングに手をぬいていると言い出した。
ネットで他のカウンセラーを探した。
しばらく通うと今度はカウンセラーが自分のことを馬鹿にしていると憤り、また別のカウンセラーを探す。
そんなことを繰り返した。
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