私の知らないあなた(6)

 優斗が子どものころDV被害を受けていたような話を本人の口から聞いたことはなかった。


 優斗の両親は二人とも穏やかで優しいときの優斗そっくりでとてもそんなことをする人たちには見えなかった。


 ネットでDVについて調べた。


 優斗に当てはまるものもあったがどちらかと言えば多くは違っているように思えた。

 

 優斗をあきらめたくなかった。


 優斗は治らないDV男なんかじゃなくて、今は何か辛いことがあってこんなふうになっているだけ。


 きっと治る。


 こんなことで優斗を見放してしまうほど私の優斗への愛は小さくない。


 そんな私は読めば読むほどDV男と別れられない女の特徴すべてに当てはまっていた。





 梅雨も終わりに近づいた蒸し暑い日曜の午後だった。


 私が作った昼食に優斗はキレた。


 料理の盛られたプラスチックの皿を床に投げつける。


 この頃になると以前あったガラス製の食器はすべて割れてなくなり、優斗自身が割れないようにと新しくプラスチックの食器を買ってきていた。


 自分の嫌いな味つけにわざわざしたなと殴られる。


 食器が割れなくなってから殴り方が酷くなったような気がする。


 私の左頬は野球ボールが入っているのではないかと思うほど腫れあがった。


 それを見て優斗は動揺した。


 氷で私の頬を冷やしながら謝り続ける。


 ごめん雫、ごめん雫、ごめん雫。


 壊れてしまったかのように繰り返す。


 優斗は泣いていた。


「もしまた僕が雫を殴るようなことがあったら僕と別れてくれ」

 

 うなだれる優斗は私よりも辛そうに見えた。


「いや、優斗と別れたくない。ねえ一緒にカウンセリングに行こう」


 かなり前から心理カウンセラーを調べていたが、言うと優斗に怒られそうで怖くて今まで言い出せなかった。


 今がチャンスだと思った。


 優斗の反応に身構えたが優斗は大人しくうなずいた。


「うん、そうだね。僕もそうしなくちゃいけないと思ってた」


 優斗は自分でDV 専門のカウンセラーをネットで探し出した。


 私はどうしてもと優斗にお願いしてついて行き、近くのカフェでカウンセリングが終わるのを待った。


 これできっと優斗は元の優斗に戻ってくれる。


 優斗との結婚、そして出産と子育て。


 改めてそんな未来を想像し久しぶりに胸がほんわりと温かくなった。


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