私の知らないあなた(5)

 それから優斗は私に身に覚えのないことで何かにつけキレるようになった。


 キレ方はだんだん酷くなっていった。


 どなり散らしながら壁を蹴ったり床に物を投げつけるようになり、その度は私は体をビクつかせ怯えた。


「歯科医と浮気してるんだろう」


 そう言われたときはさすがに私も我慢できず激しい口論になった。


 優斗は怒りにまかせて手当たりしだい物を壁や床に叩きつける。


「優斗がこんなだったら浮気の一つもしたくなるわよ」


 優斗の手が大きく振りかざされる。


 最初は何が起こったのか分からなかった。


 左頬が熱くなり脈打つ。


 優斗は私をぶった。


 私をぶったことで優斗は冷静になったのかすぐに謝ってきた。


「雫ごめん、痛かったかい、本当にごめん。僕がどうかしてた」


 優斗は私を抱きしめた。


 そして私たちはセックスをして仲直りをした。


 ベッドの中で「さっきは本当に悪かった。もう絶対に雫に暴力をふるったりしないから」優斗は囁いた。


 床に壊れた目覚まし時計の破片が散らばっていた。


 優斗の「もう絶対にしない」という約束は簡単に破られた。


 何度も破られた。


 そして平手だったものはぐーになった。


 いつも私を殴ると優斗はすぐに穏やかな優斗に戻った。


 誰にも相談できなかった。


 誰かに言うと優斗と別れろと言われそうで怖かった。


 殴られても優斗のことが好きだった。


 前の優しい優斗にきっとすぐ戻ってくれる、今だけだ。


 そう信じていた。



 

 私の異変に気づいたのは同じ登山サークルだった亜伽里だった。


 亜伽里も優斗を羨ましがる女友だちの一人だったが私の話を聞くと、真剣な顔をして言った。


「彼と別れた方がいいよ雫。DVって治んないよ。子ども時代その人自身が被害者だったことが多くて、心に傷を負ってるから雫ではどうにもなんないよ。これ以上ひどくなる前に別れた方がいいって」


 私も前にDV男とつき合ってたことあるんだ、と亜伽里はつけ加えた。

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