私の知らないあなた(4)

 遅れてきた私を激しく責めた。


「いつもいつも遅れてくんなよ。それに何回もメッセージ送ってんのに、なんで返事しないんだよ」


「ご、ごめん。今日スマホ家に忘れちゃって」


 謝りながらも私は驚きを隠せず優斗の顔を見入ってしまった。


「なんだよ人の顔をじろじろ見て」


 こんなに苛ついている優斗を見たのは、こんな乱暴な話し方をされたのは初めてだった。


 無言で歩き出す優斗のあとを追う。


 いつもは並んでゆっくり歩くのに、手を繋ぐことも多いのに。


 なにかよほど仕事で嫌なことでもあったのだろうか?


 しばらく歩くと優斗は私をふり返った。


「雫、今日は何が食べたい?」


 その顔と話し方はいつもの優斗だった。




 タイ料理を食べその後はいつものように優斗のマンションに寄った。


 苦手なパクチーが入った料理を美味しそうに食べてくれたり、ベッドの中で私のからだを大事に触れる優斗はいつもの優しい優斗だった。


 家に帰り朝忘れたスマホを手に取りどきりとする。


 おびただしいメッセージと着信履歴が残っていた。


 さっき私に笑顔で「おやすみ」と言った優斗がしたこととは思えない。


 きっと今日は本当に何か嫌なことがあったんだ。


 それに遅刻したりスマホを忘れた私が悪いんだし、そう自分に言い聞かせた。




 これが最初だった、そして次はすぐにきた。



 優斗はその日デートに着てきた私の服装が気に入らなかったらしい。


「なんだよその服、そんな胸元の開いた服誰に買ってもらったんだよ」


 以前に何度か優斗とのデートに着たことのあるワンピースだった。


「前にも着てきたことあるよ、そのとき優斗褒めてくれたよ」


 私がそう言うと、「違う、ちょっと違う」と言い張る。


 最後は私が根負けして「うん、ごめんね、もうこの服は着ないようにするね」と謝った。

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