微妙な距離感、遠近法
「……はぁ」
とある放課後の美術室。二年生の美術部員である
「本当に誰もいないなんて……はあ、ちゃんと部活に参加しろってのー」
などと言うなおこだが、実際のところなおこ自身も美術室に来るのは文化祭の前や大会に作品を出展するときぐらいしかなかった。しかし久しぶりに来たら同級生どころか先輩も後輩も来ていない。ため息の回数ばかりが増えてしまっていた。
「あーあ、これなら誰か誘えばよかった」
スケッチブックに適当に用意した石像と果物の模型のデッサンをしながら、なおこはため息交じりに愚痴る。一人でいればデッサンなどの集中が必要な作業は捗るが、せっかく部室に来たのだから部員とだらだらと喋りたい気持ちもあった。しかし、淡い期待を抱いてすでに三十分ほど経過していた。
「あーあ」
なおこが何度目かの大きなため息を吐き出したその時。外から足音が聞こえてきた。
「だれだろ……」
足音はやけに大きく、女子のものではないとなおこは察した。放課後の美術室に来る男性と言えば顧問である社会科担当の教諭ではあるが、顧問と言う立場だけであって、あまり部活に顔を覗かせることはない人物だった。そうすると他に誰が、となおこが思考を巡らせ始めたと同時に美術室の扉が開かれる。
「あれ、なおこちゃん一人?」
美術室に顔を見せた茶髪頭の人物を見て、なおこの目がまん丸く開かれた。
「しゅっ、朱月光貴!?」
反射的に立ち上がり、なおこが指を震わせながらさした先にいる人物は普段は着ていない学ランを着こんでいる朱月光貴その人だった。
「うん、そうだけど」
名前を呼ばれた光貴は首を傾げながらにこりと微笑む。そんな光貴を見ているなおこの顔面は真っ赤に染まっていた。
「あ、もしかしなくても部活中だよね? 来ちゃダメだったかな?」
「へっ?! いやっ、べつ、ダメ、ダメってことはない、ないけどっ」
光貴の問いに答えるなおこの声はやたらと上ずっていてまともな言葉になっていなかった。
「何で、朱月、が、ここに来たのよ?!」
「俺、そんなにここに来るの意外な感じかな……」
あはは、と苦く笑いながら答える光貴を見て、ようやくなおこは指を下ろして大きく息を吐きだした。
「いや、だって美術部でもないし、美術の授業があるわけでもないし……」
「まあ確かにね」
そう言いながら光貴は美術室の中に入り、あたりをきょろきょろと見回した。
「へー、美術室ってこんな感じなんだ」
「そっか、美術選択じゃなかったっけ」
「そうそう。俺、音楽選択だから」
月原高校の一年生は芸術科目が美術と音楽、書道のうちから一つ選んで受講するようになっていた。その選択によってクラスも分けられるようになっている。多くの生徒が音楽を選び、その次に美術、ごく少数の生徒が書道というのが大体の傾向だった。
そういった理由で月原高校に入って初めて美術室に入った光貴は辺りを見て「おー」とか「へー」とか興味があるような声を上げていた。
「それで、美術室に何か用事?」
「実は調査でしてね」
なおこが問えば、光貴は肩をすくめておどけたように言う。
「調査?」
「そう。俺、オカ研ですから」
それを聞いて、なおこは「あー……」と納得と呆れの声を上げた。オカ研、という存在は学校内でもそれなりに話題になっていて、なおこの耳にも届いていた。
「それで今回は『美術室の怪』ってのを調査しに来たんだ」
「……美術室の怪?」
光貴の口から出た単語になおこは表情を引きつらせる。授業と部活で利用している教室にそんな話があるなんて聞いたことがない、と思いながらも『怪』などという物騒な言葉がついてしまったら思わず身構えてしまう。そんななおこに光貴はズボンのポケットの中から取り出したメモをめくりながら説明をする。
「何でも、美術室にあるとある絵から声が聞こえるとかどうとか」
「や、やめて……わたし普段ここで部活してるんだから」
「あはは、ごめんね。でもほら、美術室とか音楽室とかって七不思議のお決まりじゃん」
引きつった表情のままのなおこに光貴はのんびりと笑いながら答える。そりゃそうだけど、と思いながらなおこは心当たりのある場所に視線を向けた。
「絵なら準備室にあると思う。こっち」
「あ、マジ? ありがとう、なおこちゃん」
そう言ってなおこは教室の後ろにある扉の前に立つ。光貴がすぐ隣に立ったと同時に自分の心音が強くなったことに気付いて、顔に熱が灯ったのを感じた。
同じクラスになったこともなかった。そもそも出身中学も違って、部活が一緒だったわけでもない。見た目が少し派手で目立つけれど、自分とは縁のない人物だとなおこは思っていた。
展示のために美術室から体育館に大きなダンボールを運んでいたとき、気が付いたら光貴が手伝っていたのだ。どんなきっかけで声をかけて来たのかよく覚えていなかったが、その時になおこに向けられた表情だけは忘れられなかった。
「重くない? 手伝うよ」
すぐ真横に立たれて囁かれた瞬間、身体の内側で脈打つ心臓の音がやたらと大きく聞こえてしまった。体育館に向かうまでの間、光貴がなにかを話しかけていることはわかっていたのだが、彼の顔を見ることすらままならなくてなおこはうつむいたままぶっきらぼうに返事をしていた。
「じゃあね、なおこちゃん」
荷物を運び終えた光貴が手をひらひらと振りながら去る。そんな背中を見つめるしかできないなおこの中には、自分の心音だけが響いていた。
それが、なおこにとってはじめての一目惚れだった。
「……なおこちゃん?」
光貴に呼ばれてなおこははっと目を開く。準備室の扉の前で立ち止まっていたなおこを覗き込む光貴の眉は、小さく歪んでいた。
「大丈夫?」
そう声をかけられて、なおこは小さく首を振る。
「だ、いじょうぶ。ちょっとこの扉、重たくて開けにくいだけだから」
言い訳をしながら手に力を加えて、なおこは準備室の扉を開けた。がらがら、と大きな音を立てて開かれた部屋は、少しだけ埃っぽい空気が漂っていた。
「なんか、ちょっとホコリまみれって感じじゃない?」
「まあ、そんなに人が入らないから」
少しだけ早口になりながら、なおこは準備室に入る。続いて光貴も入って、辺りを見るように首を動かす。
窓に厚手のカーテンがかかっているせいで部屋の中は薄暗い。棚のガラス戸の向こう側に置かれている絵や彫刻も年季が入っているものが多かった。いよいよ雰囲気が出て来たな、と光貴は「はは」と小さく乾いた笑い声を漏らした。
「なおこちゃん、コレ、噂マジかもしれないね」
「……噂でしょ」
一瞬だけ「そうかも」と言いかけたなおこは首を振った。そんななおこの反応をくすりと笑いながら、光貴は壁付けの棚に近づいて中に入っている絵に手を伸ばした。
「それで、どんな絵?」
なおこが聞くと光貴はうーんと唸りながら絵を出しては戻し、を繰り返した。
「確か人物画……えーっと確か女の子の絵で、中から泣き声か笑い声かが聞こえるって」
「なんか中途半端な情報……」
光貴のふんわりとした情報をもとになおこも別の戸棚の中に入っていた絵を取り出した。
「これは違うっぽいなー」
「うーん、これとか?」
「いやいやいや、それ、絶対無いって」
なおこが取り出した絵を見て光貴が笑う。無邪気に笑う光貴の顔を見たなおこは、ふとそんな表情の光貴を見るのは初めてだと気付いた。普段見かける光貴といえば、女子生徒に声をかけるときのどこか余裕があるような表情で、こんな風に子どもっぽく笑うんだと新しい発見をしたような気がした。
「じゃあ、これは?」
「見せて」
なおこが光貴に絵を見せようと振り向いたら、すぐ目の前に光貴の顔があった。思わず悲鳴を上げそうになったなおこだったが、なんとかこらえて顔を隠すように光貴に絵を見せた。頼むから早く離れてくれ、となおこが祈った時だった。
がらがら、と聞き慣れた音が準備室の中に響く。光貴はなおこのそばから顔を離して、視線をずらす。光貴が離れたのを察したなおこも絵を顔から降ろして、音がしたであろう方向を見た。
「……え?」
二人の視線の先にあるのは、しっかりと閉ざされた準備室の扉。
「閉まってる、ね」
光貴が語った事実に、なおこの頭がさあっと冷えた。なおこは慌てて扉に駆け寄った。
「……動かない」
なおこがいくら扉に力をかけても扉は動く気配がない。両手をかけても、足をふんばってみても、全く動く様子はなかった。
「なおこちゃん、交代」
ぽん、と光貴がなおこの肩を叩く。
「あっ、ハイ……」
触れられた肩に異様な熱を感じつつ、なおこは扉から離れる。交代した光貴が扉に手をかけて引く。が、扉はぴったりとくっついてしまったように固くなっている。腕力に関してはなおこよりも自信があった光貴だったが、まるで一枚の壁になってしまったかのような扉の前には文字通りお手上げだった。両手を上げて後ろにいるなおこを振り返ってみれば、なおこは眉を歪めて光貴に冷たい視線を向けていた。
「情けない……」
「ひどいなあ。全力でやったんだけど」
「もしかして誰か来て、間違えて鍵かけたとか……」
いや、そんなことはありえないのだけれど。わずかな可能性を呟くと、光貴は「なるほどねえ」と納得したような声を上げた。それから光貴はズボンのポケットからスマートフォンを取り出す。薄暗い部屋の中で、画面の明かりが光貴の横顔を照らした。
「携帯、校内じゃ一応電源切る校則じゃなかったっけ?」
なおこが指摘するが、光貴はスマートフォンを操作する手を止めなかった。
「緊急事態なら許されるでしょ。でも……」
と、光貴がなおこに画面を見せる。左の隅にあるはずのアンテナのマークはなく、『圏外』の文字が映っていた。
「……マジ?」
「一瞬だけ、っていう希望に賭けてみますか」
そう言ってスマートフォンを耳に当てる。なおこの耳にも光貴の電話の音が聞こえた。
[おかけになっている電話は現在電波の届かない場所にあり……]
「ダメっぽいね」
苦い笑みを浮かべる光貴になおこはがくりと肩を落とす。が、視線の端に教員用の机が見えてはっと顔を上げた。
「あ。じゃあ、内線!」
なおこは教員用の机の上に乗っている、学校内線の電話の存在を思い出した。机に駆け寄ってその上に乗っている電話の受話器に手を伸ばす。埃を被っていて、繋がるだろうかと思いながらなおこは電話のボタンを押す。その隣で光貴が様子を見ていたが、視線を電話に繋がっている電話線へと向ける。そして、そっと電話線を引くと、本来すぐに先端が光貴の手の中に収まった。
「電話線、切れてるね」
「最悪」
受話器を置いたなおこは力なく床にしゃがみこんだ。
「大丈夫、なおこちゃん?」
「うん……何ていうか、一気に疲れが……」
「まあ、そうだよね。とりあえず電気つけようか」
光貴が入り口そばにあるスイッチを押したが、反応はなかった。つくづくタイミングが悪い、となおこは再び大きなため息をついた。
「なんなの、もう」
「まあまあ。他の部員とか来るだろうし、それを待ったら?」
「……多分、誰も来ないと思う」
部活としては毎日活動がある美術部だが基本は自由参加。そのため、行事ごとがない期間は今日のように美術室に人が寄り付かないのだ。今日だって、なおこが何となく参加しただけであって、本当なら誰も来なくてもおかしくなかった。
それなのに、となおこは隣でしゃがむ光貴に視線を向けた。
「……困ったな」
へら、と笑う光貴になおこはむっと表情を曇らせる。
「何で私がオカ研に巻き込まれて閉じ込められないといけないの」
「ごめんね、なおこちゃん。ちゃんと出れたらお詫びに何かするよ」
何か、と言われてなおこははっと目を開いた。
「……じゃあ」
「え?」
「……、なんでもない」
じゃあ、付き合ってよ。
一瞬だけ出てきた単語をぐっと飲み込んだ代わりに息を吐きだした。その時、吐きだした白く染まっているように見えた。
「寒っ……」
腕を擦り、少しでも暖かくなろうと思ったなおこだったが一向に暖かくはならない。
「大丈夫、なおこちゃん?」
そんな声と同時になおこの肩に暖かい何かがかけられた。隣を見れば、学ランを脱いでベストとシャツの姿になっている光貴の姿があった。なおこは自分の肩にかけられているのが光貴の学ランだとようやく理解した。
「風邪?」
へら、と笑いながら声をかける光貴になおこはぱちぱちと瞬きをした。
「朱月、寒くないの?」
「いや、俺はベスト着てるから平気だけどさ。ほら、なおこちゃんブラウスだけだし」
「……ありがとう」
言いながら、なおこは学ランの端をぎゅっと握りしめた。先ほどまで光貴が来ていた温もりを感じた。それからふと、なおこは光貴の姿を改めて見た。校内でよく見かける、いつもの光貴の姿だと思い出した。
「でも、何で今日は学ランだったわけ?」
「あー、今日全校集会だったじゃん。大体この時期みんな学ランなのに俺だけベストだと浮いちゃうから今日は無難にいってみたんだよね」
なおこの問いに光貴がへらりと笑いながら答える。確かに髪の色や目の色が特殊な光貴はただでさえ目立つのに、学ランの中一人だけベスト姿となると一際目立つことになる。
「別に目立つのはいいんだけどさあ、髪染めてんのかなんとかって言われるのが面倒なんだよね」
「地毛なんだ?」
「そうそう。あと学ラン自体、俺好きじゃないんだよね。堅苦しい感じしてさ」
隣で座りながら光貴と当たり障りのない会話をしながら、少しずつ光貴の事を知っていく自分になおこは小さな喜びのようなものを感じていた。
「でも良かった」
「何が?」
「学ラン、なおこちゃんのために使えて」
穏やかに笑う光貴を見て、なおこは頬に熱が灯ったのを感じた。
ああ、やめてほしいな。
そんなことを一瞬思ったなおこは小さく俯いた。
「……ねえ、朱月」
「ん?」
「あんたって、やっぱり好きな人とか居るの?」
「へっ?」
なんの脈絡もない唐突な質問に、光貴は目を丸くさせてぱちぱちと瞬きをした。光貴の困惑を察してなおこははっと顔を上げて手を振る。
「いや、そのっ……、あんた、誰にでも優しいからさ、いるのかなって……本命とか」
「本命、ねえ」
なおこの言葉を聞いて光貴は視線をなおこから天井に向けて、静かに答えた。
「いるよ」
「……そうなんだ」
「うん、普通に本命いるね」
「陽田さん、とか」
再び光貴は驚きを隠せずに「え?」と声を上げた。間抜けな顔だ、と思いながらなおこは光貴の顔を見てふっと笑った。
「やっぱりね」
「えー、そんなにわかりやすいかなあ」
いつも校内で見かける余裕があるような笑み。それとは違う表情を、なおこは知っていた。
オカルト研究会の会長である陽田里佳のそばにいるとき。校内で二人が会話をしているのを、光貴が里佳に向ける表情を見た瞬間――なおこは確信していた。
「でも、なおこちゃんと話すのも楽しいよ」
そんなふうに言いながら穏やかに笑う光貴に再び胸を高鳴らせるなおこ。暗幕のわずかな隙間から見える光貴の顔を見てなおこは眉を歪める。
「いや、やっぱり違う」
「違うかな……」
「朱月って、意外と鈍感なんだ」
「そんなつもりはないんだけど」
「かなり鈍感だと思う」
鈍感だから、私の気持ちにも気づかないんでしょ。なんて、思いを伝えることをすらしていないなおこはどうしようもできない思いを抱きながら苦い笑みを浮かべていた。
その時、がらがらと大きな音が準備室内に響く。
「……え?」
なおこと光貴は同時に声を上げて、視線を扉に向ける。先ほどまでぴったりと閉まっていたはずの扉が開いて、準備室内に美術室の明かりが入り込んだ。そして、その扉から準備室に入ってきたのは、
「月読?」
目をまん丸く開いた光貴が部屋に入ってきた夜維斗の名前を呼ぶ。扉を開けた夜維斗は部屋の中の光貴と、それから光貴が着ていたはずの学ランを羽織っているなおこに視線を向けた。
「朱月……、何したんだ」
「待って月読、俺なにもしてないって」
「変な誤解しないで?!」
夜維斗の一言に光貴もなおこも慌てて立ち上がって夜維斗に事情を説明しようとする。
「冗談だ」
慌てる二人を見ても表情を変えない夜維斗が平静な口調で一言言うと、光貴もなおこもがくりと肩を落とした。
「……月読、お前タイミングっていうのを知ろうぜ……」
はは、と笑いながら光貴が言えば夜維斗は小さく息を吐きだす。
「お前がどこにもいないって陽田が探してたけど……こんなところで何してたんだよ」
「里佳に頼まれて七不思議調査をしていたら扉が開かなくなって困ってた図」
へら、と笑う光貴に夜維斗が眉を歪める。二人の会話を聞いていたなおこは「あっ」と声をあげて肩にかけていた学ランを外した。
「朱月、これ」
「ああ、学ラン。忘れてた」
「普段着てないから忘れてたの?」
呆れたようになおこが言えば、光貴は「あはは」と楽しそうに笑いながらなおこから学ランを受け取った。
一方の夜維斗は視線を準備室の奥に向けていた。その耳に誰かの笑い声が聞こえてきたが、気に留める様子もなく準備室を出た。続けてなおこと光貴も準備室から出る。
「結局噂の絵も声も聞こえなかったね」
「噂だけでしょ。七不思議なんて本当にあるわけないじゃん」
後ろから聞こえてくる光貴となおこの言葉を聞いて、夜維斗は大きく息を吐きだした。
「ごめんね、なおこちゃん巻き込んじゃって」
「まあ、こっちも準備室の扉の問題に気付けたからいいけど」
光貴が言うとなおこは肩を竦めながら言う。実際、古い絵を片付けようと思ういいきっかけだし、部員を呼ぶ理由にもなるし……と考えていたら光貴がなおこの顔を覗き込んだ。
「ひっ」
「あっ」
いきなり視界に入った光貴の顔に上ずった声を上げたなおこに、光貴が驚いたような反応をした。それからへらりと笑って、なおこから離れた。
「ごめんね、もしかしておどかしちゃった?」
「……いや、うん、ちょっと……うん」
どう言えばいいかわからないなおこは真っ赤に染まった自分の顔を見られないように俯くしかできなかった。
「おい、朱月行くぞ。陽田が五月蝿くなる」
「おう、先に行ってろー。じゃあなおこちゃん、お邪魔しました」
先に美術室を出た夜維斗を追いつつ、光貴はなおこに声をかける。
「ねえ、また美術室に遊びに来てもいい?」
「……え?」
光貴の言葉に、なおこが顔を上げて目を丸くさせる。光貴はにっこりと笑って手を振っていた。
「今回のお詫びにお菓子持ってくるね。じゃあね、なおこちゃん」
「ちょっ、はあ?!」
軽やかな足取りで去っていく光貴に、なおこは悲鳴のような声を上げるしかできない。慌てて光貴を追いかけようとしたが、すでに光貴の背中は遠くに去っていた。
「……もう来ないでよ! 心臓が持たないから!」
そんななおこの悲鳴も、光貴に届くことはなかった。
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